夜桜と猫

No.0 black out





誕生日とかなんだとか。

ハッピーバースデーとかなんだとか。

考えてみれば別になんでもない。
ただ単に体に刻まれてる記憶の年数が一年増えたってだけで特になんでもなし。
めでたくも何でもない。そう、どってことないない、こんなこと。

そう、誕生日に一人暮らしのアパートで、一人虚しく自分で買ってきたケーキを突っついてるだなんて別にどうってことないんだって・・・!
















夜桜と猫
 black out













遊ぶ約束だった友達からは今日の朝一に風邪なんだ本当にごめん謝るこの埋め合わせは必ず・・・!という殊勝な電話を頂いた。
奴の普段とは全く違う殊勝な態度に思わず噴き出しそうになったのだが、言葉の意味を理解した瞬間に絶望した。

おい、ちょっと待て。

それは私に、誕生日を独りで過ごせという宣告ですか。そうですか。

彼氏なんてものは友達と過ごそうと言ってる辺りからもう明らかに解ると思うが居ない。
今から空いてる奴を探そうなんて所業はできるわけもなく?

せめても誕生日の雰囲気を味わおうとこうして自分で買ってきたケーキを独りつっつく羽目になったわけだ。
それがまた逆にこの虚しさを大きく飛躍させているわけで。
なんて悲しい。ああ、なんて寂しい。

・・・泣きたくなるな。

誕生日だし、いいや買っちまえ食っちまえと大量購入してしまったケーキ(4個)を机に広げフォークで突っつきつつ、インスタントコーヒーをずずずと啜る。
カロリーを考えると恐ろしいことになりかねないので敢えて考えない。考えたら絶望したくなりそうなので考えない。
そんなこんなで机の上のケーキが空っぽになった時、私は目の前のあり得ない出来事に目を丸くした。
思わず斜め上方向に視線を泳がせたが、目下の問題は消えない。


・・・・・・・・いつから、うちの机はブラックホールになったのだろう。

呆然とした。

グルグルと回るようなマーブル模様。
黒灰色のソレはとっても気持ち悪くてそこにこれまた食われるように飲み込まれていく皿やらケーキの屑やらに不快感。
机の上に乗ってい居た全てを食いつくしたあと、それはぽっかりと黒い口のようなものを開け、ケプッと、一丁前に満足したように息を吐き出した。
それがまたなんかムカついたのだが、次の瞬間にとっても嫌な予感が脳裏を過る。

とっても嫌な予感。もうダッシュで逃げだしたくなるくらいには嫌な予感。

目の無いソイツと、目が、あった気がした。
しかも、ソイツがニヤリと、笑ったような気さえした。

気味が悪い、のとはまた違う。
気持ち悪いのはもう疑いようもない事実なのだが、得体の知れない何かの得体を知っている気さえしてそんなばかなと内心首を振る。
そんな内心、焦っているのか落ち着いているのかサッパリ解らなくなってきた私の腕を―――何かが掴んだ。

そんなバカな、と思う。
だってここは私の“独り暮らしの”部屋だ。
今は私以外誰もいないのに。
そう、ソイツを除いて。

掴まれた腕を見て、腕を掴んでいた黒い手を視線で追って。
自分の眉間にこれ以上ないくらいに皺が寄るのがわかった。
自分の口元が盛大に引きつるのを感じた。
今の状態で鏡を見ればそれはもうとてつもなく変な顔をしているのだろうと予想はできたが、そんなことを実行に移す余裕も無く。
脳の片隅で、あぁこれがホントの喉から手がでるってことかぁなんて考えるふざけた私の思考をぶっ飛ばしたかった。
そんな悠長なこと言ってる場合かぁっ!!

グイッと凄い力で引っ張られたかと思えば目の前にはブラックホール。
軽く目眩がした。
腕が飲まれ、頭が飲まれ、腰に足にと続き、私はソイツに飲み込まれてしまったのだ。

そして、誰もいなくった。





ああ、なんて笑えない。






to be next