夜桜と猫
閑話
誰かに取られてしまうくらいなら。
縛り付けて
ベッドに両腕を縫い付けて
俺の下に組み敷いて
どこにも行かないように檻で囲んで、
俺のことだけを考えるように
甘い
えげつない程甘い愛撫で犯していきたい
他の何も考えられないように
快楽によがる姿に酔いしれながら
ぐちゃぐちゃに犯して
ドロドロに溶かして
心も身体も俺のものに。
誰かに、取られてしまうくらいなら。
閑話
ウィリアム=ルシルフル
俺の中で何かが変わったのは自分でもよく解る。
ふとした瞬間に己を顧みると、以前ではありえない行動をとっている自分がいて、感心するというよりは笑えた。
世間体を気にする社会なんてクソ食らえだと思っていたというのに。自分は自分で、そこに自分が存在しているのだから良い、他の誰も関係ない、俺自身が在れば何も望むことなど無い、と、思っていたのに。
誰に何と言われようが生きていける、自分で何とかできるような知識も財力も力も手に入れたのに。
彼女との関係を世間一般で用いるような安っぽい言葉で表されるのに嫌気がした。
他人の評価が気になるだなんて俺としたことがどうしたことだろう。驚天動地でそれに気付いた時などはありえない、彼奴の次は俺が他人の思考をトレースでもしたのかと思った程だ。
「救えない。」
くっ、と人知らず喉が嘲笑った。
それは自分に対して呆れているのか、気恥ずかしいのか。
「不毛ですね。」
「・・・何が言いたい。」
「マスターは自由奔放なフレンドがお好きなのでしょう?それを捕らえてしまえば本末転倒もいい所です。」
「・・・・・・・・。」
なんでこいつは俺の思考を読めてるんだ。
読心術なんて怪しいものはインストールしてなかったはずなんだが。
「マスターは顔に出やすいですから。」
喧しい。これでも俺はポーカーフェイスだと専らの噂なんだぞ!!
はぁ、と嘆息する。が来てから、どうも調子を崩されて困る。
この俺が、他人のことで悩むだなんて、相手を思って耐え忍ぶだなんて、昔を考えたらそれこそ臍で茶を沸かすような所行なんだが。
つと、窓の外を見る。と桔梗が家の屋根とそこら辺に積み上げられた車との間に紐を張って白いシーツを干している。そんないつも通りの、“日常”。
それを壊したいと思う自分が居る。
俺だけを見て、俺の声だけを聞いて、俺だけに感じて。俺だけのモノにしてしまいたい。なんて、醜い独占欲を抱く自分。
それと同時に、否、それ以上に、このままで居たい自分も居る。
治外法権のこの街で、例えそれが外の世界では赦されないことだとしても、街のルールさえ守っていれば何もかもが赦される、そんな街で、
彼女は驚く程、美しいから。
姿形の造形ではなく、その心が。
眩しいくらいに綺麗だから。
汚したく無い、なんてまるで彼女に神の姿でも見ているかのような。
なんて馬鹿らしくて、望ましいことなのか。
この俺が、この街の酸いも甘いも汚いことも殆ど見尽くしてしまったような俺が。
こんな、普通の青少年のような思いを抱くようになるだなんて。
有り得ない自分、
新しい自分、
新しい感覚、
気持ち、
想い。
それを気付かせたのは他でもない彼女で、それを育ててくれたのも彼女だ。
窓の外では、キラキラと陽光の中で無邪気にはしゃぎ回る姿が、まるで何処かの絵画のようで。
テーブルの上、彼女が煎れてくれた珈琲を手に取り、口に運ぶ。
なるほど、
It is beautiful that the butterfly is in the field.
(蝶は野にあるのが美しい。)
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