万事屋ビスタ
第1話 将軍の場合
太陽がサンサンとその暖かい光を降り注いでくれている。
そのおかげで冬真っ盛りな今の季節でもなんとかやっていける。太陽ってやっぱり偉大だ、と再認識した今日この頃。
「お茶御代わりしてもいいかな。」
「…どうぞ。」
この男はいつまでうちに居座る気だろうか。
はげんなりした。
万事屋ビスタ No.1
というかお日様も空の天辺でギラギラと輝いている今時分、普通、人は一生懸命働いている時間なのではなかろうか。
酒楼や遊郭ならばまだわからなくもないが、確か自分の記憶が正しければ彼は宮廷の武官、それもかなり高い位に座していたはずだ。
(―――サボりか。)
はハァと溜め息を吐いた。
さして自分に支障があるわけでもないので別にいいのだけれども。
「藍様、私の顔に何か?」
ジッと無言で顔を見詰められるというのも居たたまれない。
手元でチマチマとやっていた内職から目をあげると案の定、交錯する藍色の瞳。
さっきからチクチクチクチク視線が刺さるとはこのことだ。
茶の御代わりも注いだし一体何の用だ。
「いや。殿はお美しいな、と思ってね。」
「そういう世辞は後宮の女官達に仰れば如何ですか。それこそ私なんかよりお美しいのに。」
訳せば「さっさと仕事に戻れこの穀潰し」であるが顔には笑顔の面を貼り付ける友である。世渡りの基本を嘗めちゃいけん。
楸瑛は愉しそうにその瞳を細めた。
まだ幼いながら万事屋ビスタの創設者兼主人であるは中々にイイ性格をしている。
大人に対しても言いたいことははっきり言うし、かと言って己の立場をもわきまえている。
ずっと居座り続けている自分にも何だかんだ言って追い出そうともしない。
高い所で結わえられた漆黒の髪、吸い込まれそうな深い黒曜石の瞳、陶磁器のような白い肌。
楸瑛は世辞を言ったつもりは毛頭ない。彼女は誰が見ても美しいのだ。本人は自分の外見に興味がないのか今でも気付かず終いだけれども。
楸瑛はそんな彼女と時を過ごすのが気に入っていた。
息苦しくもなく、気だるくもない。
何も言わないけれど、何もしなくてもただそこに居てくれる暖かい空気のような彼女を、楸瑛はとても気に入っていた。
今日も、万事屋ビスタではゆっくりとした暖かい空気が流れている。
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第1話 将軍の場合
2008/01/16
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