万事屋ビスタ

第2話 迷子名人侍朗の場合







青い空

 白い雲

  輝く太陽



うん、今日もイー天気だッ!









万事屋ビスタ No.2









ツン、と目の前に転がったモノをつつく。

ツン

…モゾ

おぉ動いた!
生きてるのか、コレ。
まぁこんな精巧な人形ここにはないかー。

ツン ツン

ガバァッ


「うぉおッ!?」


いきなり起き上がったソレに思わずのけぞる。
なんだなんだゾンビかキョンシーか!?


「・・・・・・・・・。」


・・・あ、また倒れた。












朝、起きて牛舎小屋のおじさんに牛乳もらいに行こうと店の戸を開け、いざ行かんと足を踏み出せば感じた違和感。むに。
…いつからうちの店の前はこんなに柔らかくなったのだろうか。昨日雨だったっけ?と思考を廻らせつつ視線を足元に向ければ。











「第一何でいつもこの人うちの前で倒れてんだ?生き倒れならもっと金持ちそうな家の前にすりゃいいのに。」

自慢じゃないが万事屋ビスタは年中火の車だ。

とりあえずその“いつもの”彼を店の中に運び込み、腕を組む。
さて、どうすべきか。


「―――とりあえず、朝飯でも作るかな。」


ふぁさりと彼に己が先程まで使っていた布団をかけ、彼女は袖を捲った。











トントントン、という規則正しい音とフワリと香る良い匂いで彼は目覚めた。


(―――またやってしまった。)


最近では聞きなれてしまったその音と見慣れてしまった部屋を見て彼は覚醒直後にそう思った。

昨日の吏部での仕事は奇跡的に終わりを迎えることができた。一重に上司の気紛れのおかげだと言えよう。いつもこうなら良いのに、というのは言うまでもない。
邸に帰ろうとくるまを探して三千里。
例の如くこの店の前に生き倒れたらしい。我ながら情けない。


『絳攸さんってうちの前限定で瞬間移動でもできるんですか?』


というのはここの店主の少女の言葉だ。
因みに言い返せない。

絳攸は情けなさのあまり額に宛てていた手を退けて、床から這いずり出た。
調理場へと足を向け、其処に居るであろう少女に思いを馳せる。

例え無意識下であっても、生き倒れるならこの店の前でと決まっている自分を誉めてやりたいと思う。

吏部侍朗でもなく、紅黎深の養い子でもない、肩の力を抜ける、ただの“絳攸”でいられる時間。


(―――悪くない、と思う自分が居るというのも言い得て妙な話だ。)


青空色の髪の青年は、我知らず口許に笑みを浮かべた。





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第2話 迷子名人侍朗の場合


     2008/01/17
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