夜桜と猫
No.11 witch
「・・・っ」
「オーケー。引くぞ、ギャザ。」
ガクガクと足が震えている。
視線は俺らから見ればまだ少女とも言えるだろう年齢の、空中に漂う彼女に釘付けにされ、顔色は彼女が持つ気に当てられたのかこれ以上無いまでに悪い。
・・・まぁ、それも無理はないだろう。
念を習得している自分でさえ、この場に居るのがツラい。
端に散った客共はポカンと彼女を見上げているのみなので恐らく極小さな範囲にだけ向けられているのだろう。
何て器用な真似をする。
しかし、それは逆に無駄な危害は加える気はないという意思表示でもあり、パーティー会場に押し入った招かれざる客に向けるにしては破格の待遇であると思われた。
「・・・でも、!!」
まだ何か言おうとするギャザの野郎を一睨みして黙らせ、思わず溜め息を吐く。
彼女と己の力の差が解らぬほどでもないだろうに。
彼女が醸し出す雰囲気からして一対一でかなわぬことは言うまでもなく、少し探りを入れれば一対多数でさえかないそうもない高い壁が感じられた。
ギャザはまだまだ人間としても能力者としても若い。
見た目か弱い少女に負けるというのがプライドが許さぬのだろう。
とはいっても、こちら側から無駄な負傷者を出す気はさらさらない。
今のところは手を出す気は無いのだろうがこのホール内に彼女の他に二人の能力者が居ることを考えれば、彼女の言葉に甘えさせてもらってここは一旦退いた方が良いだろうことは明白だ。
「今日の所は分が悪い。お前だけ残りたいなら話は別だが、俺らは退くぞ。」
己が命は大事だろう。
元より、今回の目的は彼女ではなくバリウスのクソ野郎だ。
今の状況から察するに、彼女がいる前では何人たりとも手が出せない。
彼女も別に雇われた身ではなく、ただの客のようだったから、バリウスを殺る機会は今で無くともいくらでもあるのだ。
ギャザと、他の奴ら、それに―――自分自信に、そう、言い聞かせるように。
・・・無駄に命を散らす気もない。
ならばここに留まることに意味はない。
ギャザもそのことは解っているのだろう、しばらく渋った後、「了解、ボス」と獲物を担ぎなおした。
「邪魔したな」
感謝する、と彼女に目線を向け、 窓ガラスを割って外に飛び出した。
あとはいつも通り、それぞれがそれぞれの面を被って、周りに溶け込み、またいつもの場所で作戦を練るだけだ。
今度は彼女が居ぬ時を探らねばならない。
キラキラと夜の光を浴びて飛び散るガラス
街のネオンは今日もまたうるさいくらいにその存在を主張していて。
―――名前くらい、聞いておいてもよかったかもな
と、自分に似つかわしくない考えに自嘲した。
◆
ひひひ酷い目にあった。
これ以上、事を大きくされては困ると、ぶっちゃけ、私が見ている前で死人を出すのはごめん被りたいので銀狼くんをつれて箒で空へと脱兎の如く逃げたのはいいんだけども。
(逃げ足には自信がありますよ。えぇ。)
睨んでくる犯人さん(A)は恐いわ、言及するような銀狼くんの視線は痛いわ、ボスとか呼ばれた犯人グループのあの厳ついお兄さんも止めてくれりゃいーのにじっと動かないわで、もう何がなんやら!
四面楚歌!
やっと諦めてくれるかと思いきや、ボスのお兄さんに、てめぇ覚えとけよ。的な感じに去り際に睨まれました!
もう、ほんと、勘弁してください。
こういう時、能力を逃げれるタイプのものにしといてとっても良かったー!と心の底から思いましたとも。
あの頃の私、グッジョブ!
レイと離れられるようになってから、少しずつ開花していったらしい私の念能力。
特に瞑想とかも何もしていないのにある日突然朝目が覚めたら真隣に箒が鎮座していた時はそりゃもう何故箒!と驚きましたがね。
桔梗が新しい遊びに目覚めたのかとも思いましたがね。
今でも何故箒!とか思ってますがね。
(だって私、別に綺麗好きでもなければ、魔法使いに憧れて・・・いたのは中学までだし。憧れてはいましたとも。宿題一瞬で終わんないかなとかね。あとポッター家の坊ちゃんのお話にハマってた時期もありましたとも。しかし何故箒。)
ま、今では、乗り降りも自由自在、他にも色んな使い方がある超便利グッズとして愛用しておりますが。
そんなに徒歩が嫌だったのか私。
まぁ確かに流星街は一般人が足踏み入れるのにはまず間違いなく躊躇するだろう汚さだけれども。
「そんな大変な思いを私がしていたというのに、マスター何処におられたんですかこの野郎。」
『フレンド、口が悪いですよ。』
「レイだって黙り込んじゃってさー!もう大変だったんだから!」
主に私の精神状態が!
「いや、仕事で来てるからなぁ。目立つのも何だと思って隅の方で煙草吸ってた。」
「何でジャックされてんのに悠々と煙草吸ってんの!」
「吸いたかったから」
「この自己中野郎!」
世の中って不公平!
「・・・随分と空と地上では印象違う奴だな。」
「それもまた面白いだろ?」
「ふむ、まぁ確かに。」
・・・せんせー、なんだか知らない人がマスターの隣で人のことをジロジロと玩具をみるような目で見てきます。
誰だろうこの失礼極まりない男は。
なんだかマスターと同類な匂いがそこはかとなくします。
いやいや、ちょっと違うかな。
狐狸妖怪な匂いがプンプンします・・・!
誰かと、遊ぶじゃなくて、誰かで、遊ぶ人種な感じがする。
お近づきになりたくない。
だと言うのに
「俺はゼノ。ゼノ・ゾルディック。よろしくな、?」
なんて見た目だけ紳士に手を差し伸べてくる狐狸妖怪は私のことを知っているら
しい。
ウィルからよく聞いてるぜ、なんて。
なんて事をしてくれたの、マスター!
てゆーか。
グランパ!
グランパ・タヌキ!
あわわわわ
わか、若いから気づかなかったよまぁそりゃ銀狼くんが若かったらこの人も若いの当たり前ですよね!
目の前の現実に目を背けたい気持ちで一杯です。
平々凡々な毎日を送りたいのに!
ゾルディック?
バッカお前、死亡フラグ立ちまくるでしょ!
銀狼くんだって名前聞くまでは誰が認めるものかと儚い希望を持っていたというのに、グランパの隣で親父、なんて呟く声を悲しいことにすこぶるよくなった耳が拾ってしまった時は絶望したくなりました。
ああもう絶望した!
「こっちが俺の息子のシルバ。まぁ、こっちはさっきから一緒にいたみたいだから知っていると思うがな。」
ところがどっこい、知りませんでしたとも!
そんな時間もなかったし、できるだけ聞かないようにしていましたからね、ああもうなんていらないことをしてくれる!
「、これからも何回か会うだろうからな。それでなくともゾルディックと知り合っとけば色々と役立つ。よろしくしとけ。」
「本人の前でそういうこと言うなよな。」
「今更だろ。」
なんてジャレあっているマスターとゼノさんですが。
私の意見など聞く耳持たぬって感じに話を進めていってくださっているお二人で
すが。
一つ言わせて頂きたいことがございます。
今後、出逢う予定は一切ありませんんん!!
おま、そんな平凡ライフぶっ壊すようなこと誰が望むというのか!
出逢った瞬間脱兎の如く逃げ出す自信があります。
大丈夫、大丈夫。
脱兎、得意分野。
ちろり、と盗み見た銀狼くん・・・もとい、シルバくんがじっと私に熱い視線を送っていたなんてきっと気のせい。
(なに、私なんか失礼なことした!?夜道や背後には気をつけるべき!?)
◆
とウィリアムと別れたあとのゾルディック家飛行船の中、
「・・・親父。」
「なんだ?シルバ」
「この前の話、は」
「アヤツはダメだぞ。」
「・・・・・。」
「ゾルディックに十分嫁入りできる器だろうがな。」
アレは番犬がうるさそうだ。
ゼノは空に浮かぶ魔女を愛おしそうに見ていた悪友を思い浮かべ、喉を鳴らした
。
なんてことがあったなんて、が知るよしもない。
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