夜桜と猫

No.12 Unpleasant Feeling






空は青く澄み渡っていて、なかなか良い感じ。
風も穏やかで、太陽は弱くもなく、かと言って強すぎでもない光を注いでくれている。

今日みたいな日はやっぱり気持ちいい。
仕事中だが、ついついふあぁ、なんて大きな欠伸が出そうなところを抑えようともせず大口開ければレイに行儀悪いですよなんていうお小言をもらうのは最早最近の日常と化していた。


そう、日常。


つい先日、色んなフラグがたったりしたあの悪魔の1日を覗けばマスターにレイに桔梗に自分、という家族(?)4人の凡々とした、とまではこの流星街という特殊な環境からしていかないながらも、いつもの日常を送っていた私であるが。


まさか、その日常を壊すペポドンが我が家に待ち構えているのだとは夢にも思わず、せっせと仕事に励んでいた。

この時、もしも私が先のことを読めたりする人間であったのならば、まず間違いなく出家する勢いで逃亡しただろうに。
生憎、そのような都合の良い能力が身に付いているはずもなく。



















No.12 Unpleasant Feeling

















「はい、役所からねー。いつもの、って言えば分かるそーですから。受取サインお願いしますー。」



役所から承った小包をよくお世話になる(主に物品調達面で)ヒキじいに手渡して、証明変わりのサインをもらって。
ここで、いつものって何入ってるんだろうなーなんて好奇心を発揮してしまうととても痛い目に遭いかねないのでスルー。

運び屋、と言えば聞こえが悪いのだが、私は今現在、この流星街で宅配の仕事を請け負っている。
場所が場所なので、宅配物の中身は見ないのが暗黙のルールみたいなものになっているのだ。

あちらさんはモノが届けばそれでいいし、こちらは金が貰えればいいので利害が一致した形となる。
変に中身を知ってイザコザに巻き込まれるのはぜひとも遠慮したいところなので、そんな中身を見るだなんていう冒険と書いて恐ろしいルビが振られてそうな行為は金を積まれてもやりたくない。
命あっての物種である。
いや、ほんと。


まぁ、ヒキじいの場合は大抵の場合、どうよこれーと言わんばかりに自慢してくるので、ほとんど何が入っているのかは知ることになるんだけども。
今回も東の島国の逸品なんじゃーとかいう刀を見せられて、明らかに日本刀だなージャポンだっけ?とか考えながら、お得意の長話が始まる前に早々に退散した。

ヒキじいの話は長いからなぁ。
それがなかったら良いじいさんなんだけども。


いつものようにひらりと箒に跨って地を蹴ると、ふわりと重力に逆らうように軽々と身体は浮き上がる。

またのお取引をーなんて言いながらヒキじいに手を振ると、達者でなーなんて大きく手を振り替えされた。
ちょっとそれなんか旅に出るような感じの別れ方ですけど、私別に流星街出る気はないですよ・・・!


未知の世界へ飛び込む気はさらさら無い。
流星街だけでお腹いっぱい


ハハハ、んもうヒキじいったらおちゃめさんーと遠い目をして空笑いすると、頭に虫でも湧きましたかとレイの突っ込みが入った。
私はそんなフラグを自ら立てるようなことはしたくないんです。

レイも解ってないなーとか首を振り振り言ったら、はぁあ、と大きな溜め息を吐かれた。
ちょ、原作うろ覚えでも知ってる私から言わせてもらえば、誰がそんな危険いっぱいデンジャラスワールドに突撃するのかと誰もが思うと思うよ!

呆れたような雰囲気を出すレイをお供に大人しくマスターの家に箒を向けて。






あっのーひーとはー






なんて鼻歌歌いながら箒で空を飛ぶのはなかなかまた楽しい。
つまりはどこかの黒猫を連れた魔女子さんの真似で始めたこの宅配業であるが、気に入っているのである。

他の飛行物なんてこの流星街、物凄い生命力と逃亡力を誇る鳥(だって捕まったら即食われるだろうから)と、不法投棄しにきた飛行船くらいしか通らない空は、下をゴミを踏み分け踏み分け行くよりも断然速いと結構な評判と客数を勝ち得ている。

結構な繁盛を遂げているこの能力を良いように使った私の仕事は、中々に成功したといえよう。



「・・・・・・・レイ」

「はい?」

なんだか嫌な予感がするというか嫌な予感しかしないのだけれどどうしよう。

「・・・・・・・・。」



沈黙で返さないで欲しい。かっこなみだ。




街はリンゴン遠ざかっていーくーのー
なんてまた鼻歌を歌っていればものの数分でマスターの家に着いた。

そこで覚える違和感。

え、あれ。

あの、

気のせいじゃなければ、

・・・なんだか、



「家に居る人数おかしくない・・・?」

「・・・4人、気配がしますね。」



ふむ、と私の疑問に答えてくれたレイはレイで気まずそうな雰囲気を醸し出した。
本来ならば家にはマスター、桔梗の2人だけしかいないはず。
それが何故4人もいるのだろうかどういうことだこれは。

マスターのお客さん、という考えもないことはないが、如何せん、うちのマスターは自分の家に他人を上げることを極端に嫌う。
流星街の人間でも、外の人間でも、その扱いは同じである。


その上に、この2人の気配。
どこかで感じたことがある気がするのだけれど。


それも極最近。悪魔のワンデイに。


嗚呼、やっぱり嫌な予感しかしない。


神様なんていない。




































!!」



扉を開けると、小型爆弾が腹に突っ込んできた。
なんか来そうだなぁ・・・なんて思いながらの予想通りだったのでこちらのダメージは比較的軽微。

ドンッとそれはもう私に何か恨みでもあるのだろうかと疑いたくなるような勢いで抱き付いてきた桔梗を受け止めて、どうしたの、なんて問い掛ける前にぐい、と桔梗の身長に合うように引き寄せられた。

ちょ、首閉まってる閉まってる!!



「き、桔梗?どどどどうしたの、」

「あああああ、の、ひ、!!」

「どうしたの、マジで!!」

「あの銀髪の人、誰!?」

「わぁ、超危険!」



ギャルゲー的フラグが立ってる!

ボソボソと私にあの人は?と聞く桔梗はまるで気になる先輩のことを聞く初々しい新入生のように女の子だが、如何せん、私の襟首を息が詰まる程の怪力で引き寄せ、凄い形相で聞いてくるのでマイナスポイント。
おまけに聞かれた対象が銀髪の少年。
残念ながら答えてやる気にすらなれない。

いつか言ったと思うがゾルディックなんていう危険な一家に可愛い一人娘を嫁にやる気はさらさらないぞ!

わたわたと、空から銀髪の2人組が降ってきて(ということは飛行船からダイブか・・・やっぱり人間じゃないな)、珍しくもマスターが仕方ないとか言いながらも家に上げ、茶を出した、ということを身振り手振りで伝えてくる桔梗はああもうなんて可愛いんだろう。

ますますゾルディックなんぞに嫁にはやらんという意識が私の中で固まりつつある。



「あのね、桔梗。とりあえず落ち着きなさい。」

「落ち着いてられるわけないわ!ねぇ!」

「はいはい、深呼吸してー。何?」

「あの人の名」

「あのね、桔梗。あの人たちはランクSSの危険な人達なの。だからマスターの知り合いだっていったってそう易々と」

「そんなことはどうでもいいの!名前は!?年は!?」






ど う で も い い だ と ・・・ !?




下手したら死亡フラグがバンバン立ちまくりそうな人物相手にどうでもいいだと!?
そんな馬鹿な!

全く、我が娘ながらお母さん貴女の思考回路が心配になってきます。
誰に似たのかしら。
お母さんは貴女をそんな子に育てた覚えはありません!



「ねぇ、!あの人どんな女の子がタイプかしら!?この前マスターが買ってくれた服に着替えた方がいいと思う?あ、でもいつもよりフリルが多めなのだけどそういうの好きかしら!?」



どっかで育て方間違ったのかなぁ・・・。

ガックガックと私の襟元を掴んでシェイクシェイクシェイク!したり、かと思えば自分の身だしなみを素早くチェックしてみたりと急がしそうな桔梗を見て、思わずマスターの顔が思い浮かんだ。

奴のせいか・・・!

いつもいつも非実用的だからヤメロというのにヒッラヒラしたドレスと言って差し支えのないような服を買ってくるわ、遊び道具におよそふさわしくないようなものをセレクトするわの諸悪の根源を今すぐ殴り飛ばしたくなった。
大事な娘が日々命を狙われそうな暗殺一家に嫁に行ってもいいというのか・・・!



「・・・おい、何やってんだ?も帰ってきたならきたで茶でもいれろ。」



ガチャリと開いた扉から出てきた人物に思わず手が出そうになった。
いかんいかん、暴力反対。

ただでさえ、今現在家の中にいる人物たちを考えれば大人しくしておこう。
余計なフラグを立てないように。
私は箸より重いものは持てない平凡ななんの面白みも無い女ですよー!


ぱたぱたと服をはたいたり髪の毛を指で梳いたりしている桔梗の首根っこを引っつかんで家の中に放り込んだマスターにはよ来いと言わんばかりに手を振られて仕方なしに家に入った。



何故我が家に帰るのにこんなにも気を張らねばならないのだろう。





2009/9/26