夜桜と猫

No.13 Hospitality






「・・・・・・あぁ、ね。」



我が家のテーブルを囲む有り得ないというかこいつらが結託しているのを考えたくない面々と、肝心のテーブルの上にあるものを見て。
帰って早々、何故マスターが茶でも煎れろなどとのたまったのかよくわかる気がした。

これは酷いですね、とレイが頭の中で呟いた。
うん、私もそう思うよ。



コレは酷い。


















夜桜と猫 No.13



















「いくらなんでも、コレは無いと思いますよ、マスター。」



(いくら招かれざる、アンド、超ド級危険人物たちだからって、というかそうだからこそ、コレは無いです。もう自殺行為です。



「うるさい。いいからつべこべ言わずに早くしろ。」

「そらもう超特急で煎れますよ煎れますとも、うちにある一番高い茶っ葉で煎れますけどね!?つべこべ言いたくもなりますよ、マスター、なに出してるんですか!」

「水。」



(イン ザ バケツー!!)



『しかもあれってミネラルウォーターじゃなくて雨水ですよね。』



マスターの別に良いだろというような視線と、レイの突っ込みに泣きそうになった。
時として真実は研ぎ澄まされた刃物よりも鋭い。



雨水。雨水!!
しかも流星街に降る雨水。
酸性雨やら、工場廃棄物やら、とにかく体にすこぶる悪そうな物質が盛りだくさんだろう雨水!!

ああぁぁぁぁ・・・。
終わった・・・。

目が覚めたらそこは異世界でした、とか、他人格と身体を共有しましょう、だとか、ある日突然若返りました、とか。
色んな苦難や有り得ない現象にも耐え、乗り越え、自棄も起こさずに一生懸命生きてきたというのに、神様、あなた私のこと嫌いでしょう。
何故こんなにも苦難を私に降り懸からせるのですか。
若い頃の苦労は買ってでもしろ、という格言がありますが、寧ろ私、叩き売りできるほどあると思います。

あぁもうこれさ、確実死亡フラグだもん、リビング戻ったが最後私死ぬんじゃね?
何飲ましてくれとんじゃーとかで胴と首が泣き別れしたりしちゃうんじゃない?

いくらこっちに来てからレイのおかげで丈夫になったり念能力使えるようになったっていったってゾルディック家に仕掛けられたら私、ひとたまりも無いですだってあの人たち本業、私素人に毛が生えた程度!





・・・・・死ぬ!





というか何故我が家にゾルディック家の坊ちゃんや現代当主がいるんだろう。
親子揃って何故よりにもよって流星街に?

マスターに用があるなら外で借りてるというか寧ろそっちを本宅にしろよと思わずにはいられないマスターの仮宿にでも行ってくれりゃよかったのに。(物が無くて生活感はさっぱりだけど、その分たまに掃除に行くだけでも全然綺麗だし、あっちの方が飛行船で来なきゃいけない流星街より断然行きやすいと思うんですけど!)


ノー、関係性!


と思わず叫びそうになった。
私、及び可愛い桔梗とのフラグは些細なことでも立てないようにできればファーストインパクト以来もう会いたくもないと思ってたのになにこれセカンドインパクトですか?
いらないいらない、そんなもの断じていらない!

そこで、ハッと気付く。



「ちょ、桔梗は!?」

「向こうだな。」

『お客様2人とリビングですね。』

なんてこった!



なんで桔梗だけ残してきたの!レイはともかく、マスター、あんたキッチンに居たって何もしないくせに!
桔梗とゾルディック家次期当主の坊ちゃんとの間にフラグが立ったりしたらどうするんですか、というかもうすでに立ちそうなんだから、やめてやめて桔梗と坊ちゃんに接触する機会を持たせないでぇー!

桔梗ったらなんだかシルバのこと気になっちゃってるみたいだから、何仕出かすかわかんないし、件のシルバといえば何考えてんのかさっぱり解んないからとんでもない事を起こさないとも言いきれないし、ゼノさんはとりあえずあの人面白そうな事柄なら突っ込んで行きそうだし!(だってマスターのお知り合い!)

頭の中でレイが『物凄い偏見ですね』とか呟いた気がするけれど、だって組み合わせを考えてくれと言いたくなった。

明らかデンジャランスな3人組である。
まぁ、マスターが加わって4人になろうが、デンジャランスな組み合わせには変わらないのだけれども。
そこはほら、桔梗とシルバの絡みが少しでも減るだろうってことで人数多いに越したことは無いし!

・・・で、大慌てでリビングに戻ってみれば。



「それでね、シルバ!その時にったら・・・」

「本当か?それはすごいな」

「でしょ?もうほんとったらすごいの!やることが普通じゃないっていうか」

「飛び抜けてるよな。」



シルバと桔梗が楽しそうに会話しておりました。

おいこらちょっとそこっていうか桔梗!!
うっすらと頬を染めない、シルバも笑顔で相づちしない!!
なんかもうすっごい良い雰囲気じゃないか!!



「・・・なんてこと・・・!」

「あ、。」



思わず、フラッと後ろによろめいてしまった。
危ないだろ(俺が)、と支えてくれたマスターに(なんか後ろに間があった気がするけれど、まぁ支えてくれたことには変わりないので)、一言お礼を言ってからもう一度2人に視線を戻す。

シルバの方が桔梗よりも先に私に気付いて声を上げ、桔梗もシルバにつられてこちらを向いたのは良いのだけれども桔梗さん?あなた私への愛はないのですか?
いつも一緒にいるのに気配すら気付いてくれないのか、私よりもシルバの方がいいのか!!



『いつも一緒にいるからこそ、シルバ少年の方が桔梗よりも早く気づいたのでは?』

『ばっかレイ!寧ろ逆にだからこそ、先に気付いて欲しかったという私の親心』

『あーはいはい。』

レイちゃん!?ひどくない!?

『フレンド、キャラが壊れてきていますよ。』

『あぁもうそんなことよりも、桔梗は私よりレイよりマスターよりもシルバがいいの!?そういうことなの!?どうなの!?』

『まぁ、桔梗も親家族よりも異性に興味を持ち始める時期ですからね。まぁ、同性に走らないだけ良いんじゃないですか?』

『ばかー!私にとっちゃ、可愛い桔梗が女の子に走る方がマシだよ!女の子、イコール、可愛い、シルバ、イコール』



大 問 題 !!!!!!



なんていう脳内会議をレイと繰り広げている間にも私の体というものは、きちんと先ほど淹れたお茶を出しているわけですね。
ああ、なんていう悲しき条件反射。
昔、ファミレスでバイトしてたこともあったからか、お盆持つととりあえず、動いちゃうだなんてどんな給仕根性なのか居たたまれない・・・!



「・・・?ゼノはどうした?」



マスターの呟きに思わず、大きく頷いてしまった。
なんでゼノさん消えてんの桔梗とシルバ2人っきりなの!

カタカタとお盆が音を立てた。
いかんいかん、落ち着け、お盆壊したらまたマスターにイヤミ言われるでしょ。

レイの体を借りるようになってからもう年単位で結構たつのだが、こう感情の変化で力加減を見誤る度にマスターに馬鹿だの阿呆だの文句を言われるのは日常茶飯事なのである。
モノを壊す度にマスターがいつのまにか新しいモノを調達してくれるのだが、前のものよりも高級そうなものを買ってくるところがイヤミだと思う。



「親父なら仕事があるからって先に帰った。あんたに頼みたいことがあるから後で連絡するって」

「マスターったら、いつの間に消えたの?ゼノさんったら苦笑しながら帰ったのよ?」



・・・とりあえず、桔梗はマスターよりもシルバの方に興味があるらしい。
マスターのこの感じようとしないでも、煩く自己主張してくる存在感が居なくなったのに気付かないだなんてどれだけシルバ一直線だったの!



「・・・お前は帰らなくていいのか?」



ゼノさんの話題に顎に手をあてて、難しい顔をしてずっと黙り込んでいたマスターの視線、ふいにスイとシルバに移動した。

確かに、飛行船をわざわざ使わなきゃいけないここじゃ、いくら自家用機だといったって(くそう、金持ちめ!)何度も呼んで帰るよりも一度に一緒に帰った方が断然経済的で宜しいかと思うんですけど。まぁこれ庶民の考えなのかもしれないですけどね!!ハッハ、黙れ!
レイの『自分で言ったんじゃないですか』なんていう突っ込みは例の如くスルーして。



「・・・俺の仕事は今日はもう無いからな。」

「ほほう、悪名高きゾルディックが今日はもう暇だと?平和で何よりだな。」

「そっちこそこっちの世界では有名な人形師だってのに女のケツ追いかけてるなんて良い御身分だな。そろそろ廃業か?」

「・・・可愛くねぇガキ。」

「あんたに可愛がってもらおうなんざこれっぽっちも思ってないからな。」



・・・ちなみに人形師というのはマスターの念に由来するもので、あちら方面の仕事をしているうちにあだ名された名前だ。
お偉いさんや大金持ちの中には人間は邪魔だけど、相続税やら何やらの関係で存在は必要だとかいうややこしいお方も少なくはないらしくて、そんな時に役立つのがマスターの能力らしい。
まぁ、平たく言えば、口煩い本人は殺しておいて、自分に従順な偽物を据えておこうっていう話だ。
全く、金持ちの考えることは本当によくわからない、とこの話を聞いた時は思ったものだ。


だからだろうか・・・。


この二人がいきなり口論し始めたわけが、全く解りません。










(さっさと帰れこのクソガキ)
(うるさい俺がどうしようがあんたには関係ないだろ)
(言っとくがこの家のモノは、物も者も、全て俺のモノだからな。)(・・・フン、独占欲の強い輩は嫌われるんだぜ)
(しつこい輩も嫌われるって言うよな)





2009/10/24



とりあえず、坊ちゃんがさんに会いに来ました。
ゼノさんが面白そうだからって着いて来ました。

坊ちゃんはさんのことが気になって、わざわざ流星街まで愛故に(笑)遊びに来て、さんの話をしてくれる桔梗ともそこそこに楽しく会話します。
桔梗も本人には絶対言わないけど大好きなさんのお話ならいくらでもします。坊ちゃんが喜んでくれるなら尚更ペラペラします。
ゼノさんはそんなシルバのことも桔梗のことも解ってて、こりゃ更に面白そうだとか思いながらニヤニヤ帰るんですよね。あとでマスターに仕事のメールとかいっといてからかいのメールを送ったらいい。
で、マスターはそんなシルバがやけにムカついて、本気で可愛くないガキだと思ってます。元から子ども好きでもないのにね。

なんだか、色々盛り込みたかったのですが、文才無きが故に無理でした・・・。