夜桜と猫

No.4 The woundfull day.







前にも言ったかもしれないが。

マスターは考え事をしだすと周りが全く見えなくなる。


言葉は右から左へと流し素麺よろしくツルツルと流れ、視界に入るものは考え事に関係ない限り瞳はただのガラス玉のようにその虚像を映すのみとなる。

元来、他人に言葉で説明するという行為が「面倒くさい」「それくらい空気で察せ」という理不尽な言い分で切り捨てるマスターは、いつまでたってもたぶん己の頭が良さ過ぎて他人には付いていけない方向に思考がぶっ飛んでいくということに気付いてくれない。

ここ2年間も一緒にいるというのに未だ何を考えてるのかさっぱりわかんねぇ。



「・・・レイ、あんたどういう意味かわかる?」



そういうわけで私の相談相手はもっぱら現在一緒に何か使える物ないかな物色ツアーに参加している、可愛い猫の人形と化したレイである。
彼女の方がマスターと居た期間は長いはずだから知識も多いのだ。

といっても停止期間もそれなりにあったわけだから微妙と言えば微妙かもしれないが。


レイは私の隣をポテポテと歩きながら、カクンと可愛らしく首を傾げた。


「どういう意味、とは?」

「私とレイが離れたわけ、私が縮んだわけ。」










夜桜と猫
 No.4 The woundfull day.










「私の身体はマスターの念を動力にして動きます。動力が切れていたところにフレンドの念が入り込んだのでしょう。フレンドは人間らしいですから、ダダ漏れの念を私がもらっていたようです。縮んだわけは解りませんが、離れたわけはおそらく私のキャパオーバーってところでしょうか。」



もうこれ以上受け取らなくとも数年動き続けられるだけの容量を受容したようです。



あっけらかんと述べたレイは、だいぶ簡略化してくれたであろう言葉にもあまり付いて行けていない私の頭にもう一つ爆弾を投函しやがってくれた。それも特大の。


「本来、他人の念を受けても作動しないはずなのですが、どうやらマスターとフレンドの念の質は似通っていたようです。」





そ れ は ど う い っ た 意 味 で し ょ う か ね 。





私の中で文句無しに変人のカテゴリーに振り分けられているマスターと似ていると言われても全く嬉しくないのだけれど。


「あーもう。わけ解んない。」

「問題ありません。」


自棄になって行儀も何も無くガリガリと頭をかきむしる私に珍しくも、何ともないというように言い放つレイ。
いつもならこちらが嘘でも理解したと言うまでしつこく説明してくるというのに、なんと珍しいこともあったものか。

そんな意味を込めた目でレイを見ると可愛い人形の格好ではぁーと呆れたように深い溜め息を吐いてくださった。
(結構傷付く。)




「全て推測や憶測に過ぎません。マスターはそれを確証へと代えようと、またもう1つの問いの答えを探そうと考えていらっしゃるようですが、今の私たちでは到底不可能ではないかと推察します。それでしたら理解できない推測を理解しようとするよりも今まで通り、その問題は脇へ避けて他の事を考えていた方が余程生産的で現実的です。」




ここ2年間も私とただ「なんとなく」で同じ身体を共用していられたフレンドならわけないかと。

そんなレイの言葉がなんだか誉められているのか貶されているのかよく解らなくなってきた私は馬鹿でしょうか。


ファンシーな身体になって右肩上がりでレイの口がどんどん悪くなっていっている気がします。
(というよりも、考えてみれば今まであのマスターと一緒にいてグレてないってだけでも驚きだ。)

まぁ、



「あー、いいや、じゃあ。」



こうやってすぐに脇へ置いておけるというのも嘘じゃないので何も言い返せないのだけれども。

基本、解らないことをとやかく考えるのは嫌いなのだ。
解らないことはとりあえず人に聞く。
それでも解らないのならばいっそ脇へ置いておく。

それが私のスタンスである。




「それはさて置き、フレンド。」

「ん、何?レイ」


最近、レイも脇に置いておくってのが多くなったよねぇ。やっぱりこれも私のせい?
とかなんとか思っていれば、レイから予想だにしない返答が帰ってきた。


「そちらの足元にある黒い箱、生命反応です。」

「もっと早くそれを言え!」








The day when I did an unexpebted encounter,
(思いがけない出会いをした日。)