極東の魔女の襲来
第4話 魔女のおもちゃ
別に、これが自分に何かしら益のある何かを運んできてくれるとはセブルスはこれっぽっちも思っていない。
なんたってアノ魔女の手から受け取ったものだ。
魔女だぞ魔女。
どちらかといえば、何か不吉な香りがぷんぷんする。
できるものならばいらない羊皮紙やら何やらに包んで包んで包みまくってゴミ箱にポイッと記憶と共に抹消したいのだが、そんなことをすればバレた暁には魔女に何をされるか解からない。
本当に、ナニヲサレルカワカラナイ。
セブルスは己の手の内にある物体を眺めながら神経質そうな溜息を吐き出した。
場所は次の授業に向かう途中の廊下。
人混みはあまり好まないので、余裕がある限りホグワーツでもあまり人の通らない場所を通っているからか、どこぞの隙間からひゅーひゅーと隙間風が吹きすさび少し肌寒い。
それでもローブの前をきっちりと閉め、セブルスはしっかりとした足取りで次の授業の教室へと向かう。
手には昨日、蛇寮の魔女から半場無理やり受け取らせられた黒く丸い玉を握りしめて。
魔女はこれを、獅子寮の悪戯仕掛け人などと称している奴らに出会った時に“投げつけろ”と言った。
思いっきり、親の敵でも討つように。
ということはこれはこんな小さいナリをしているくせにあの4人組を黙らせるくらいの何かが仕込まれているということらしい。
ちょっと己の手の内にある小さいブツに「うわぁ」とか思ったがまぁ魔女の私物だしと思い直すセブルスである。
寧ろ、アノ魔女の私物で普通の地球に優しい系の代物が出てきたりした方が驚く。
破滅へのカウントダウンかと思う。
例の4人組とはすこぶる関係が良くないセブルスなのでこの魔女からの贈り物は考えようによればイイモノという括りにいれられるのだが、なんせアノ魔女からの贈り物。
何考えてるかわからん。
第一、・は彼女自身も悪戯仕掛け人に良く遭遇している。
その度に、印の五月蝿いムシ撃退グッズ(将来的にはマグル向けに痴漢撃退グッズとして売り出すのがのちょっとした楽しみだ。叶うかどうかホントびっみょう。)が炸裂するのだが、そのことが証明しているように、新しい怪しげな道具は彼女自身が使えばなんら問題はないはずなのである。
今まではそうしてきていたことをホグワーツの生徒は皆知っている。
セブルスももちろんのこと知っている。
あれだけ騒がれれば誰でも知っている。
知っていない輩が居ればそれこそ潜りだ。
だからこそ、自分の手の内にある玉を怪しむのだ。
アノ周りには露程の関心も示さずに我が道を爆進する・が。
わざわざ、他人であるセブルスに何かを贈るなどそれだけで一種ミステリーである。
訝しがるなと言う方が野暮。
だって・である。
彼女が歩いた後には草一本生えないのだとか。マジデカ。
コレが彼女の摩訶不思議な発明品の試作品であることはまず間違いないだろう。
それも、彼女自身がまだ試していない。
彼女がわざわざ他人に我が子とも称して愛でるコレを託したということはイコール自分で試してみたくない、ということと同義である、とセブルスは定義づける。
たぶんビンゴ。
セブルスは背中を冷たい汗が伝うのがわかった。
コレを使う時が悪戯仕掛け人共を巻き込んで、とはいえ自分の冥土の治め時かもしれない、と悟ったからだ。
ウワァ、ドウシヨウ。
「おやおや、これはスニベリーじゃないか。」
「あれ、こんな所で奇遇だねぇ。」
この時程、セブルスが悪戯仕掛け人に会いたくなかったと苦虫を盛大に噛み潰したことはない。
「・・・・・・・・・。」
不機嫌そうな表情を隠そうともせずに顔に浮かべるセブルスを気にもとめずに(というか彼はいつも不機嫌そうな顔をしといる)、悪戯仕掛け人ことジェームズとリーマスはにんまりと笑った。
まるで、良い所に来てくれた、とでも言うように。
その顔を見てセブルスの頭が警鐘を鳴らす。
絶対コイツ等何か企んでる。
セブルスはギリ、と奥歯を噛み締めて後ろへと後ずさった。
の を すこぶる後悔することになる。
何故あの時、後ずさったりしたぁあああ!!?と性格に反したりしながらこの夜、悶々と考えたりもする。
「「「・・・・・・・・・・あ」」」
嫌な予感。
珍しくもセブルス・ジェームズ・リーマスの心が1つになった瞬間。
「あら、こんな処で奇遇ね。」
いや、あんたの場合、誘発的だろう。狙っただろ。
なんてどこぞの犬がいたりしたらの失言。
「セブルス・スネイプ?どうしたの、早くしないと 遅 れ る わ よ ?」
にぃっこりと、それはもう愉しそうに魔女は嘲笑う。
その笑顔の裏に色んな言葉を見てしまったセブルスはこれ以上ないくらい寄せた眉間に器用にも更に数本皺を増やした。
確かに、こんな所で油を売っていれば次の授業に遅れるだろう、普通に。
駄菓子菓子。だがしかし!!!
だからこれ・の話ね。あーゆーおーらい?
彼女が た か が 授業に遅刻するくらいのことでとやかく言う わ け が な い 。
寧ろ、嬉々として見物しているだろう、今後の発明の調査のためとかに。
その調査とやらのおかげでことごとく(シリウスが)返り討ちにされて(いるのを見て)いたジェームズとリーマスも彼らには珍しくもたらーりと冷や汗を流した。
ナンカクル。
たぶん生きとし生けるもの全てに共通する直感。
野生のカンが大声で叫んでいます。
撤退ぃいいいいっ!!!!
逃げる?ノーノー、戦略的撤退っと言ってくれ。
しかし、そう思う思考に反して動かない足に歯噛みする。
おいおいちょっと。
動いた方が負けとか時にはあるけども今は違います動かないで突っ立ってる方が負けだから。
だって何か来る。
セブルスが手に持っているモノなんて端から眼中になかったが魔女が出てきたら話は違う。
だってアレ今の状況で見たら明らかに魔女からのプレゼント。
「・・・一応言っておいてあげるけど、そこ。もう私の術中だからどんなに頑張っても無駄よ?」
あ゛ー…幻覚が見える…
3人は彼女の後ろに鮮やかに咲く、けれども可憐な花を見た。
内面を知っている者にとっては恐ろしく似つかわしくない花だが、外面にだけ重点を置いて見ればなんか合ってるからこれ不思議。
そんな外面からの性格予測をおもくそ無視した・のホグワーツでの成績はある一方面に偏ってすこぶる良い。
自分が興味のある分野でのみ、ものすごい回転をみせる・の脳は使い方を間違わなければ天奉の才だ。
一度見た、読んだものは彼女の頭の引き出しに仕舞われる。
出し入れ自由な引き出しは需要度別に仕分けされて整頓されていて、いつでも何処でも気が向いた時に引き出され応用され、人体実験に及ぶ。
明らか使い方が間違っていた。
たまにホグワーツでは習わない、彼女の故郷とされる極東の国の術を見よう見真似の独学の自分流にアレンジしまくって使う彼女は―――皆の恐怖の対象である。
だって蛇寮の魔女。つーかマッドサイエンティスト。
逆らったら何されるかわからない。
触らぬ神に祟り無し。
そんな教訓がセブルス・ジェームズ・リーマスの脳内を駆け巡った。
だが、も う 遅 い 。
「はい、よいしょー!」
魔女はそりゃもーうれしそーに、高らかに右手を振り上げた。
同時にセブルスの右手も上がる。
驚愕に歪むセブルスの顔を面白そうに見ながら魔女はとってもイイ笑顔で笑った。
セブルスの手にあったモノが宙を飛ぶ。
勢い良く飛び出した玉は滑らかな放物線を描き、地に落ちる。
と、思われたその時。
パァンッ
まるでクラッカーか何かのようなけたたましい音がその場に響く。
玉が割れたのだ、と思うがそんなはずはない。
玉が地面に落ちる前に、音は響いたのをその場の誰もが視認していた。
それに、玉が割れたのだとしてもその残骸と呼ばれるものはどこにもなかった。
玉は、音と共に消えたのだ。
慌てて周りを見回して、みまわ、し、て。
驚愕した。
「な、な・・・!?」
「・・・あれ?」
「おやおや」
セブルス、リーマス、ジェームズが多種多様な反応を示す中、ソコに、彼女の姿はなかった。
と、いうよりも。
「ここは何処だっ!?」
自分たちが先ほど居た廊下とは違う別のドコカに居るのだというのは考えずとも明らかだった。
だって、なんか真っ黒。
視界が360度全て黒。
まるでインクを零したかのような常闇の中に3人は居た。
いつの間に
誰の仕業だ
なんて考える必要もない。
・。
彼女の仕業に決まっていた。
アレか。
アレなのか。
頭の中に浮かび上がるのは先ほどセブルスが持っていた黒い玉。
そういえばアレもココのように何色にも浸食を許さぬかのような黒だった。
彼女の、彼の魔女の髪も瞳も真っ黒双黒。
あれ、なんか黒が不吉な色に思えてきた。
いやいや髪の毛黒なんてホグワーツにも結構居るのだけれども。ここにも居るのだけれども。
そう思わずにはいられなかった。
深い溜め息を吐いた。
図らずも溜め息は三人同時に吐き出され、ちょっとした間をあける。
言うまでもないが、セブルスと悪戯仕掛け人の一員であるジェームズとリーマスの仲は良くない。むしろ、悪いと呼べるものがあるだろう。
しかし状況が状況なのだ。
こんなわけのわからない場所にいきなり放り込まれた状況でいがみ合いという無駄な行為をする程、三人共馬鹿ではなかった。
だが。
だからと言って、これからどうしよう、などと膝突き合わせて話し会うような空気にもならない。
というか、したくない。
気まずい空気。
のなか。
『―――問題点は2つ。対象の認識と空間の選択ね。』
この場にいないはずの人物の、の声がその場に響いた。
空から降ってくるかのようなその声に一瞬唖然としてから、抗議しようと口を開く前にまた声が降ってくる。
『聞こえるかしらー?って言ってもこっちにはそっちの声が聞こえないから勝手に喋るけど。』
・・・この時点で喋る気が失せた。
というか聞こえないなら喋っても意味がない。
そりゃ言いたいことはたくさん、そりゃもうたぁくさん!あるけども!!
黙る。
出たら言ってやろうと思うが、に面と向かって文句を言う度胸と書いて馬鹿な心意気は誰も持ち合わせていなかった。
触らぬ神に祟りなし。
『今、アンタ達は私の作った玉の中にいるわけだけど、ま、1時間したら出られるようにしてあるから安心して。』
安心できるか!!
『それまでは大人しくしててね。』
そう、言うだけ言って、声は止んだ。
頭を抱え込みたくなった。
1時間?空間?なんだソレは。
相変わらずのスイの発明品に一同はなんかもうぐったりした。
タイムロス・異空間への隔離での対象への精神的苦痛、おまけに今回の場合、犬猿の仲の相手との密室。
なんて性格の悪い。
この時ばかりはセブルスもジェームズもリーマスも、互いに目を合わせ、もう一度溜め息を吐き、お互いの災難を心中慰めあった。
実用化されないことを切に願う。
2008/12/6
Copyright (c) 2009 All rights reserved.