月に叢雲 花に風
act.3
―――嗚呼、悲しきかな。
どこの世界も“破落戸”と呼ばれる奴らの思考回路は似通っているらしい。
(別にそんな無理して異文化コミュニケーシュンはからなくてもいいのに。)
月に叢雲 花に風
act.3
「おおう久しぶりじゃねーか!元気か!」
「お久しぶりですー!元気ですよ!そちらも相変わらずお元気そうですね!」
「あったりめーだ!」
こんにちは、です。
只今、町からお送りしています。アロー皆さん元気?
用件はといえば炎のおじいに忘れ物を届けに、という名目なんですけども、まぁそんなに急ぐ必要もないよね。
忘れたあっちが悪いわけだし。寧ろ届けてやろうという私の優しさを有り難く受け取るが良い。
そんなわけでどちらかと言えばのーんびりと町をふら付いている次第です。
今日も今日とて町の皆さんはお元気みたいで。
この一年の間に何度かおじいに引っ付いて町に降りて来ていたので、最初に比べると大分知り合いも増えた。
自慢じゃないが友達作るのは得意な方です。友達の友達は私の友達なノリでいつもいつの間にか隣にいるとよく言われます。
あ、コレ別にジャイアニズムとかじゃないっすよ?寧ろ、人類皆兄弟みたいな?うん、それ。
というかおじいに引っ付いてるだけじゃ禄な知り合いできねぇってことが最初の一ヶ月で痛い程理解しましたからね。
抜かりはないっす。
「ねぇー!!」
ぷーらぷーらと歩きつつ、暖簾を潜って冷やかしかけたり、声を掛けてきてくれる店先の人たちに軽く挨拶しながら歩いていると前から突っ走ってくるチビ。
「んあ?あれ、どした?」
(比較的)近所のチビだ。
血相を変えてバタバタと掛けて来て、目の前にくるとハァハァと肩で息をする。
チビの慌てぶりに慄きながらもとりあえず背中を擦ってやると落ち着いた様で荒い息の音も段々と静まっていって、
最後にゴクンと息を飲むとバッとこちらを強い瞳で見つめた。
「母ちゃんが、大変、で!」
「っ!大変ってどうしたんだ!?」
切れ切れにチビが吐いた台詞に思わず強い調子で言い返す。
この国は医療というものがそれほど発達していない。
巨大な大学病院なんてものはないし、医者だって町に一人いるくらいで庶民があいそれと気軽に尋ねれるものではない。
保険もないので治療代も貧しい庶民にとってはとてもじゃないが払えない。
町医者のだいたいは心優しい者が多いので、治療代はいい、と言ってくれる医者も少なくはないがそれでも悪い、
と感じてしまうのは人としていた仕方ないことであろう。
強力に効く薬、特効薬も、錠剤も、予防摂取なんてものもはない。
有って薬草、無くてそのまま。
病気というものは現代と比べてこの時代ではもっと恐ろしいものなのだ。
山に住んでいるので暇な時はおじいに付きまとって薬草やら何やらを教えてもらっている。
少しでも、役に立てば。
「・・・っし、と。これで・・・たぶん大丈夫だ。」
ふいー、と息を吐きながら額に浮かぶ汗を拭う。
チビの母さんは幸いなことに大事って程でもなく、言って見ればただの風邪だった。
とはいってもチビにしてみればいつも元気な母親が床に臥せって苦しそうにしているのを見ると頭がパニクってしまったんだろう。
薬を調合している最中も隣でうろちょろあっちでうろちょろ、第一声には「母ちゃん大丈夫だよな!?」
そんなチビに「大丈夫」と安心させるように笑いかけながら、おじいに教えてもらった薬草と薬実を混ぜ合わせ、ぬる湯と一緒に母親の口に流し込む。
こくん、と苦しそうだが飲み込んだのを見届けてポンっとチビの頭に手を置いた。
「あとはゆっくり寝かせとけば直良くなるよ。一応、起きた時にまだ気分が悪いようだったらコレ飲ませとけ。」
「うん、うん!ありがとうねぇ!!」
ぎゅ、と首に手を回して抱きついてくるチビの背中をポンポンと優しく叩いてにっこりと笑う。
「どーってことないって。母ちゃん、大事にしろよ。」
うん!と元気に答えるチビを微笑ましく思いながら、一つ、溜め息を吐いて遠い彼方を見つめた。
母さん、元気かなぁ・・・・・・・・・・・・・
チビの家から出て、しばらく歩いて。
目に留まったものを見て眉を顰める。
・・・・・・・・・・・はーい、前方には男が3人。
よく見てみるとこちらからはちょうどその男達に隠れて見えなかったのか少女も1人。
男達が私と同い年くらいの少女と相対するように立っているのだ。(大人気なー。おま、歳考えろよな。)
少女の必死そうな顔と声を聞く辺り、何か揉め事が起こっているらしい。
そこまでは、と り あ え ず は、わかった。まぁ、よくある話の部類に入るのだ ろう。(というか入れてやろう)
―――だが。
「そうは言ってもねぇ、嬢ちゃん?悪いのはそっちでちゅからねぇ?」
ゲラゲラと癇に障るこの笑い声。
ムカツクったらありゃしない。この時点でビキッと自分事でもないのに米神に皺が寄る。ああなんてムカつく。
こいつらきっと “品”ていう言葉がインプットされてない系の人種だ。
周りの人々の視線やら雰囲気から見ても、明らかに男達の方が悪いのは火を見るより明らかだというのに何あの態度。
真面目にむかつくんですけど。
これはちょいとシメとかにゃならん。
顔を顰めながら茉莉はスタスタと男の1人の真後ろに着き、片足を上げて思い切り右端の男を蹴った。
ドカッ
飛んだ。男が。
男は何が起こったのか解らないままに前方にそれはもう無様に吹っ飛ぶ。
そのまま何事も無かったかのようにポキポキと首の骨を鳴らしながらボケ ーと立っていた。
目線が青い空を向いているのはきっと「思ったよりよく飛んだな…」とか考えているからなのだろう。
「な、なんだ、テメェ!?」
なんて叫ぶ男達の声は軽く無視をして。(ていうかお前等こそ何だ)
ドカッ
今度は左端にいた男を殴る。もちろんグーで、だ。
こちらを振り返っていてくれたのでもれなく顔面に拳をプレゼント。見事に入った。
残る真ん中の1人は反撃しようと振りかぶるが
「・・・遅いね。」
その前に鉄拳が飛ぶ。
自慢じゃないが(ここ1年の間におじいと喧嘩しまくったから)腕に自信はありまくるのだ。
そこらの破落器ごときに負ける気はさらさらしない。
全く、胃に続いて一体どんな体の造りしてるんだ、あのじじい。
あれか、実はスーパーサイ●人とかウル●トラマンとかの宇宙からやってきた系の人種なのだろうか?
一度解剖してみたくなるね。
「ふぅ・・・。で?大丈夫だった?」
パンパンと手を叩きながら又も何事もなかったかのように笑顔を浮かべ、は男達と相対していた少女に話しかけた。
いや、だって記憶に残すのも癪に障るからね。
周りで町の人々が「やるなー!」とか「いいぞー兄ちゃん!」とか言いいながら
パチパチと惜しみの無い拍手をくれるのにちょっと照れながら頬をカリカリとか く。
っておいちょっと待て誰が兄ちゃんだッ!?
「あ、ありがとうございます!」
「・・・いんやー?いいっていいって。気にすんな。困った時はお互い様って言うじゃん?」
少女にお礼を言われて、ある意味で機を逸した。
一先ずは流しておくことにしよう。一先ずね、一先ず。あとで覚えとけ?特に八百屋のおやじ。私等顔見知りだったよな!?明らかにわざとだろう!!
聞くと少女の名前は紅秀麗と言うそうだ。
・・・紅、って確か貴族の名前だよな?
この国には州ごとに有力者がいて、州名をさずかってる、とかいないとか?
少ない脳内記憶で推測しつつも、名家の子?と眉を寄せながら考えついた結論にうんたぶんきっとそう、と自分で納得する。
「でも何で紅家のお嬢さんがこんな所で1人でうろちょろしてるわけ?危な いよ?さっきみたいなのいるし。」
「・・・・あ、ははははは」
・・・ちょ、私何か変なこと言ったか!?
何か貴族のお嬢様が到底することはないだろう乾いた笑いをしながら虚空を見つめてるんですけど!?
しばらくすると、その乾いた笑いがぶつぶつと呪詛のようなものに変わるのに気付く。
なに?なに!?なに!??いったいなにがどうなってんの!!!??
「・・・麦なんて、麦なんてぇええええ!!」
「おおおお落ち着けお嬢さん!!」
音量が上がる呪詛(麦?がどうしたんだ?)に吃驚して思わず手で口を塞ぐ。
なんだなんだこんな真昼間で人通りも多いなかいきなり叫びださんでくれ本気でびびったよ!!
「――-私は、好きですよ、麦。栄養もありますし。」
どうしようかこれまじでどうすべき?とわたわたとしていると後ろから聞こえる聞き覚えのない声。
振り返ると―――誰?
綺麗な顔の兄さんが一人、苦笑ぎみな顔を作りつつ立っていた。
ちょいちょい、とその兄さんが指をさすのでああそういえばまだ口塞いだままだったとうことを思い出し、紅のお嬢さんを開放する。
・・・・・・・・・・・ていうか、ね。
ちょっと待って。
何か今さっきの科白さ、聞き覚えっていうか見覚えっていうかまぁそんな軌視感を感じるのは私だけか。
ついでになんか嫌な予感がするのも私だけか。
切実に外れて欲しい予感なんだが。
「あ、静蘭!」
「・・・へごふ!」
「お嬢様!あの、どうされたのですか?」
ふふふぶふぅ!!
よよよよよ予感的中☆しちゃった感がぶふう!!(混乱)
たった今ギタギタに叩きのめした男達3人を驚いたように見つめている兄さんに絶望にも似た気持ちを抱きつつ凝視。
“彩雲国”
“紅 秀麗”
“静蘭”
もしや、あの―――ここってあの彩雲国物語の世界だったり・・・します?
そんな馬鹿な…ねぇ?
書き直し 2008/7/9
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