月に叢雲 花に風

モドル | ススム | モクジ

  act.4  









さん、お茶飲みます?」

「あ、いやー、どうぞお構いなくぅー・・・」



嗚呼、肩身が狭い。





















月に叢雲 花に風
 act.4




















ここ、彩雲国は―――小説の世界らしい。

確かに、確かにだ。
「ここは彩雲国。紫州の森の中だ。」
と最初に会った時に炎のおじいに言われた時からもしかしたら、なんて思ってはいた。
いたのだが。それは飽く迄も思っていただけなのであって。
「そんな馬鹿なー」 と笑い飛ばして終わったくらいなのであって。
(ていうかむしろ「このおっさん大丈夫か」なんて一瞬思ったくらいで。)



―――まさか、ビンゴだったとはッ

うわっちゃーと思わず額にぺチンと手の平を当てた。


だだだだだって!考えてもみてくれ。

世間一般に言うパラレルワールドっていうやつ?
あれはまぁ世界はいくつもあってどれもが並走して交わらないけど確かにある異世界、みたいな認識じゃん?
うん、そいうのならまだわかるわけよね。
こう交わっちゃいけないんだけど何かの拍子に交わっちゃってそんで私がそこに飛び込んじゃったーみたいな。(いやそれでもパニくることはパニくるが)
この場合は何よ。
小説の世界?んな馬鹿な。本の中に入っちゃいました?いやいや、そんな馬鹿な。

どうやって小説の中にインしちゃう可能性があるわけ。
そういや生き残った眼鏡の子供が奮闘する話にそういうのあったよね。なんかほら、日記みたいなの。
でもあれは記憶を見てるだけなわけだろ?あくまでも傍観者であって登場人物になっちゃったりはしないわけだろ?
私、おもいっきし登場人物じゃね?飯食ってるし、生活してるし、話してるし。

うわお、どういうこっちゃ。



「あ、そうださん。今日はご一緒に夕飯如何ですか?」

「へ!?いや、そんな、悪いし・・・」

「気にすることはありませんよ、お嬢様。秀麗お嬢様を助けてくださったのですから何らかのお礼はしたいと思っていたんです。秀麗お嬢様、今日は私が作 りますよ。」

「いえ!私が作るわ!私が助けてもらったんだから私が作らなきゃお礼にならないもの。」



・・・・・・・・・うん?
何だか私ついていけてないくさくないかい?寧ろ、他2人が高速道路でも制限オーバーな速さで突っ走ってないかい?
私を無視して世界はくーるくる回るよ。くーるくるくる・・・



「よーし!じゃぁさんのタメにも腕に縒をかけて作るわよー!」



あれー、私まだ何も言ってなくないですかぁー・・・?あ、ちょ・・・・・!!
そんな私をアウトオブ眼中で、そう言って腕捲りをして室から出ていこうとする紅のお嬢様。
ああ、何かこのまま何を言ってもそういう流れになってる気がするよ。
ハフンと諦めたように溜め息一つ。



「あ、ちょっと待って。」

「はい?」

「私のことは呼び捨てで、でいいよ?あと、敬語も使わなくていいし。 」



息を吸って、ニッコリ笑顔を浮かべながらそう言葉を吐けば、何故だか知らないが赤くなる顔。
ついでに目線も逸らされちゃったりして。

・・・わわわわ私なんか変なことしたか!?



「ありがとう、私も秀麗でいいわ。」



内心、何か気に障ることでもしなのかい私よ!ちょ、待て考えろ!!あああ謝った方がいいですかぁああああああああ!?とてんやわんやだったのだが、にっこり笑顔で返してくれたのでホッと胸を撫で下ろす。

名前呼びでいいんだってさ。
・・・あ、なんかこの世界来てから初めての同年代の友達の予感がする・・・!
おおおお友達ゲットだぜ・・・!?

・・・って。


「何か成り行きで晩御飯ご馳走になるってことになってるけど良いのか・・・?」

「もちろん、構いませんよ。」



秀麗(さっそくそう呼ばせてもらおう!なんか嬉しい)が出て行った後にボソッと呟けばにっこりとした笑みをこちらに向ける静蘭。
ボソッて言っただけなのによく聞こえたなぁなんて思いながら静蘭の方に顔を向ける。(まぁこの部屋に2人しかいないんだし当たり前か)



「そう?」

「はい。」



迷惑じゃない?と首を傾げれば、寧ろ大歓迎ですよ、と返される。



「んじゃあ…お言葉に甘えちゃおっかなぁ…」



たまには、いいかなぁ。
こっち来てから飯って言ったらおじいが作るか私が作るか。
もしくは町へ出てたまぁに店で食べたりもしたけど、こうやって商売じゃないところで誰か違う人に作ってもらうというのは初めてだ。
断る理由もさして思いつか無いし、相手方も快く了承してくれてるからいいかなぁ、なんて。

そうと決まれば、ずずーっと出されたお茶を飲みつつ・・・って、おお!すげ、このお茶んまい!
秀麗が安いのだけど、なんて言って出してくれたけど真面目に美味いよこれ!やっぱ淹れ方がいいのかな・・・今度淹れ方教えてもらおう!
じゃ、なくて。いかん、ついつい所帯じみてしまった。


「・・・それにしても静蘭。」

「はい?なんでしょうか、お嬢様。」



ゲフゲフと思考回路を整理するために咳なんかをした後に改めて静蘭に視線を向ける。
ニッコリとその綺麗な容貌にに笑顔を浮かべながら私と視線を合わせてくれた。
クソウ、何回見ても綺麗な顔だな、コイツ。



「私のこと、よく一目で女ってわかったな?大抵の奴は男って思うのに。」



前回の“兄ちゃん”然り、だ。
昔から偶に間違われることはあった。それも少なくはなく多々。
うちの兄弟は私以外全員男の男系家族だったし、服も兄貴たちのお古を着ることもよくあったからそれも原因の1つかもしれない。
小さい頃の、言語収集の時期だなんて専ら兄貴にくっついてって遊んでもらってたので必然的に兄貴とかの口調を真似るから男言葉になっちゃうし。
こちらの世界に来てからも着るものはおじいのお古を貰って(勝手に奪い取ったとも言う。だって買うのも忍びない。)
見繕って着ていたので、もちのろんのこと男物。
そんな中で私を一目で女だとわかった人はそういない。



「・・・わかりますよ。」

「なんで?」



静蘭のニッコリとした笑顔に一瞬影が射す。


―――それはまるで、遠い昔を思い出すように。


それには気付かずにはきょとんとした顔で静蘭に聞き返した。



「・・・静蘭?」



なに、なんで黙ったの?
わわわわ私、今度こそ何かやらかした!?やらかしちゃった!!?
ごごごごごめ、基本的口悪いんだ兄貴達が中々のやんちゃだったからって別に兄貴の所為にするってわけじゃなくてだー!だから何がいけなか・・・ハッ!!



「ももももももしかして私が呼び捨てで読んでるから気に障ったのか !?ごめん、初対面だもんな。悪い。ていうか何で私はナチュラルに呼び捨てで呼んでんだバカ!えーと、じゃあ静蘭さん?いやでもなんか敬称つけたらなんか変な感じがするし・・・いやいやいや、でも気に障るってのなら敬称付けた方が良いっつーかホントは付けなくちゃいけないからさうん何考えてんだ私・・・」

「・・・・・・本当に、あなたはあの時からあまり変わっていませんね。」

「全くもって意味不明。おいちょっとお前顔貸せよって感じに体育館裏とかに呼び出したくなるよね・・・・・・って、ん?あれ、何か言った?ごめん、静蘭さん。今のよく 聞こえなかった。もう一回言ってくんない?」

「気にしなくてかまいませんよ。あと私のことは敬称なんて付けずに呼び捨てで構いませんから。」



ぼそっと小さく口に笑みを浮かべながら呟く静蘭の声は生憎なのか幸いなのか私の耳には届かなかった。

おい、ちょっと待て、何でさっきの私の呟きは静蘭に聞こえてんのに静蘭の呟きは私に聞こえない?
ってただたんに私が煩かっただけですよねそうですよねワンモアプリーズ!!

てな感じに思わず俯いてブツブツ呟いてた顔をバッとあげてみたんだけども目の前の美男子のにっこり笑顔で切り捨てられました。
ああ、なんていうことだ!



「で、も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わわわわわわかった。静蘭さ・・・じゃなくて静蘭。」



抗議しようと再度口を開くがフリーズ。

あれ、なんだかこの笑顔には逆らっちゃいけないような気がする・・・。
なんか本能がそう言ってる!
慌てて次に続くはずだった言葉を飲み込んで方向転換。
どもりすぎだってのはスルーの方向で。
うんなんだか背筋が寒いんですけど何でだろうお母さぁあああああん!!

野生の勘か何かは知らないがすぐに追求するのを止めたに一言贈っておこう。



賢明な判断だ。


へふへふと荒い呼吸を整えて。
いや、まじで一瞬花畑が見えた気がした。
川の向こうになんか知らないばあちゃんが立ってた。
(誰だろうアレ。うちのばあちゃんどちらもまだまだ元気ハツラツで毎週ゲートボールとかでハッスルしちゃてるんだけどな。ひいばあちゃん?え、真面目にやばくね?

ここここここは穏やかに話題変換を試みようぜ私。
おーけー落ち着け。
ひっひっふー。



「そそそそういえば」



うおおおい!なんでそこで震える私の口よ!
わざとらしいことこの上ないがポンッと手を叩きつつ言葉を発す。
うん、これで誤魔化してくれることを私は祈ってる。寧ろそのまま流してくれ。水洗便所の如くジャジャーと流してくれ。



「あそこで、さ。隠れて入ろうか入らないか迷ってる人って知り合い・・・デスカネ?」



いやっほう第三者!
空気を換えてくれる人ッかっもーん!!
誰だか知らないけど神だと思った。
























「・・・・・・っ!?」


静蘭はその言葉にバッと勢いよく扉の方に視線を走らせた。
確かに、誰かしら人の気配がする。

―――自負するわけでもないが・・・この自分が気付かなかったなんて。
いくら驚く事があったから、と言っても言われてから気付くとは・・・。

悔しそうな顔をしている静蘭を知ってか知らずかは言葉を続けた。



「あ、でも知り合いっぽいなー。この広い邸を迷わずにここまで一直線で来れた ってことは御家族の人とか?」



この言葉には扉の外でが先程言った通り、入ろうか入るまいか悩んでいたこ の邸の主―――紅邵可も驚いた。

確かにこの邸は本家に建てて貰い、無駄に広いのだがったったの3人暮らしとい うこともあって使える部屋はほんの一握り。
下手に知らない者が入ろうものなら十中八九迷うだろう。

しかし、である。
扉の前に来てしまえば、そこにいる、という気配はわかるとしても普通の人間が邸に入ってからの気配を感じることができるだろうか?
加えて ここまでの道のりから推察することによってどのような人物か見分けることが果たして出来うることなのだろうか?
ただでさえ、自分は昔の仕事柄故か気配を察知されにくいというのに。
答えは、限りなくNOに近い。



「あら?父さま帰ってたの?」



ガチャッと開かれた扉の向こうには先程腕をまくって出て行った秀麗と少し困顔の邵可が立っていた。

良い香りがする。
夕飯が完成したのだろう。





 

2006/11/12 
書き直し 2008/7/10
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2009 All rights reserved.