月に叢雲 花に風

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  act.5  








いやー、ホント。
アタシって今日は厄日なのかしらーん。うふふふふ。

つーか寧ろ今年は厄年なのかもしれない。

と本気で考えた。












月に叢雲 花に風
 act.5












「いや、だからさ、別に私怪しいものでなはいんだよ?そりゃ国籍とかないし戸籍さえないけど一応真っ当な一般人っていうかどちらかと言えば被害者っていうかだってうんそう気付いたら森の中っていう状況で一体私に如何して欲しいんだろうこの状態はっていう感じでしょ?うんなんかもう意味わかんなくね?私が一体何をした?みたいなさ・・・」



ちちちちちち沈黙が痛い!

痛くてさ!何かもう口が勝手に色々と口走りますだって沈黙が痛いぃいいい!!
だだだ誰か助けてDAREKA!

―――秀麗、静蘭、それと秀麗のお父さん(邵可さんって言うんだってさ。なんかもうウワーだよね。疑いようもないよ。ハッ)と私の4人で一つの卓を囲んでます。

秀麗が腕によりをかけて作ってくれたっていう菜がその卓の中心に置かれていて(湯気がいい感じにたっていて美味しそう)、各々の前には箸と取り皿、それに茶碗が置かれていて。(見たところ、茶碗の中身は麦飯だ。これか?さっき秀麗が呪詛のように呟いてたやつ。「俺は米じゃないんだぜ」って嘲笑うらしい。軽くホラーだろう。)

時刻はたぶん、日本で言えば六時頃。
窓の外を覗けばお日様が真っ赤に染まって、空を紅く色付けている。

そうです、夕飯の時間です。
たまにどこかの家のお母さんが「ごはんよー」なんて叫んでいる声が風にのって聞こえます。
さっき秀麗が「ご飯できたわよ!」ってにこやかに言ってた。
うん、それと一緒に困ったような笑顔の邵可さんが室に入ってきて、今に至るわけだけど。

・・・・・・・・・なぁんか誰も喋らないんだよぉおおおお!!!

なんで!なぜ!?ホワイ!!??
私がいるから!?異分子な私がいるからかッ!!?
ごごごごごごめぇえええええ!調子に乗りました調子に乗って夕飯に招待されたヤッタんじゃ遠慮なくって寛いじゃってましたすみませんそうですよねせっかくの家族団欒をガチで邪魔してますよね本当にごめんなさいぃいいいい!!



さん、さん!!」



床に額こすりつけて誤り倒したい感じ。
止めてくれるな秀麗!一大事なんだ何か知らないけど私たぶん何かをやらかしちゃったんだよこの場の空気を一瞬でも止めちゃうような何かやってはいけない何かをきっとやらかしちゃったみたいなんだごめん本当に生まれてきてごめえええええ!!
斜め前で邵可さんが「困ったねぇ」とか言いながら茶すすってるけど本当にすみませんでした何か困ったねえなことやらかしちゃいましたかぁあああ!!



「ていうか家族団欒邪魔しちゃって本当にごめん。こんな得体の知れない・・・あ、や、名前はちゃんとってのがあるんだけどさ。でも苗字はあんまり喋るなって何故か炎のおじぃに言われてるからうんいやでも別に・・・」

お嬢様、落ち着いてください。」



ガッシ、と肩を掴む自分ではない大きな手。
・・・・・・・ん?と思わず動きが止まって(ついでに口も止まって)手の元を視線で追えば。



「え、だって静蘭!アタシって今ものすごく不審人物だろ!?間違いないだろ! ?人様の家の食卓にドスドス上がり込んで勝手に菜つついちゃったりしてるわけだしな!?お前だって苦笑だろ!?これはもう苦笑にしかならないだろ!?寧ろもう犯罪の域にすら入っちゃうかもしれないよなほんっとにごめ」

「落ち着いてください。」

「・・・・・・・っ!?」


・・・・・・・・・・・・・こここここここえぇええええええええ!!!

なんだろう今ものすんごく怖かった!なんだろうこぇええええええっ!!!
おい、ちょ、なんでにーっこり、ていう朗らかな笑み(に見える)がこんなに嫌な予感をビッシバシと運んでくるのかな嫌な汗がたらーっとぉ!!

思わず、瞬時に口を閉じました。
いやなんか変な声が聞こえたんですけど『黙らないと犯しますよ。』とか子供の教育にすこぶる良くない言葉が聞こえたような気がしたんですけどあなたそんなキャラでしたっけぇえええ!????
スルーしたい!できるものなら川の流れの如くスルーしたい!!軽く口笛とか吹きながら川の流れに身を任せたいっ!!!

目が本気なのが本当に本気でマジで恐ろしい。
目を合わせたら本当にヤられそう。いやまじでこれほんとまじで真面目にね?こんな場面・状況でふざけてられる程私根性座ってないっつーか命を(つか乙女を)粗末になんてしませんよ。うん誰か助けてDAREKA!!!
ヘールプ!!ヘルプミー!!!!



お嬢様は私と秀麗お嬢様が招いたのですから、列記としたお客様ですし、お嬢様はまだ菜に箸をつけてもおりませんよ。」



『まぁ、それでも私は一向に構わないんですけどね。』



またもや副音声、が、聞こえた、気、が。

・・・・・ふんもっふう!!
いやいや構ってください。一向に構ってくださいぃいいいいっ!!

切に願った。

ていうかこれってテレパシーですか?
私らコウモリか何かですか?
なんで邵可さんと秀麗は平気な顔してるんですか!?もしかしてこの声は私にしか聞こえてないのでしょうか…!?
そこんとこどうなんですか静蘭さん!?
そんな“あなただけ”得点要らないんですけども!?
寧ろ、熨斗つけてつけてつけまくって返したいんですけでもぉおおお!!?



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



「ところで、 さんは何か用事があったんじゃないのかな?」



・・・・・・かかかかかか神が御光臨された!!

用事は放っておいていいのかい?とやはりのほほんと茶をすすりながらニコニコと言う邵可さんが真面目に神様に見えた。ゴォッドっ!!
ありがとう空気を読んでくれて!!ん?いやこの場合は読んでないのか??いやいやどっちにしろありがとう副音声が聞こえなくなったよ万々歳!!!

はふーっと息を1つ吐き、大きく息を吸う。
ああ、良かった、まだ生きてるわ。
生きていることの喜びを感じた瞬間だった。
あとちょっとだけ耳イカレタかなやべえ幻聴?あなただけ得点?どうしようそのオプション取り外せるのかな、なんて半分本気で考えてしまったなんてことをここに記しておく。だいぶ頭が限界にキテイタらしい。

正面ではまだ静蘭が静かに笑っているがそこは流し素麺よろしく流そう…!と心に誓う。
今日はなんか流してばっかだなとか思うが、ここでこれを拾ってしまうと逆に命を溝に捨てるも同然だ。
ダメ、ゼッタイ。



「・・・・・・・・・・・・あー」



そういえば、酒。が、あったなぁ。と。
邵可さんの言葉を脳で一周回して考えた後、床に置いた酒瓶に目をやった。
グルグルと布が巻かれた瓶を肩に担いで歩いていたのでそれはそれで好奇の的だったのだが(殴り込みかぁ?俺も手伝うぜ!なんていう的外れな言葉を聞いたりもした。あいつ等は私のことを何だと思っているんだろう。)、非日常的な展開の波に流されて立っているのがやっとですっかり忘れていた。

・・・割れて、ないよな?
ちょっとばかし心配になったりしてそーっと持ち上げて布をめくってみる。・・・うん、セーフ。割れてない。



「そいやおじいにこれ届けようとして降りてきたんだったっけ。」



すっかり忘れてた。
ものすごい勢いで脳みそ箪笥に放り込んでた。うん、ま、どうでもいいからな。
おじいのことだからこれが無くてもどうせ相手にたかるだろうし。ぶっちゃけ私に害は何もないし。

ボソッと呟いたんだけど、自分で言うのもなんだが焦りの色も何もない。
いや、だって本当に問題ないだろうし。
モーンマーンターイなんてふざけたことをふざけた調子で心中叫んでいれば



「えっ!?いいのソレ!?ごめんなさい、私が引き留めたからよね!」



わたわたと、秀麗が焦り始めた。
そんな秀麗を見て目をぱちくりさせる。
いやいや、何を謝ることがありましょうか。



「どちらに届けるのですか?差し支えなければ私が届けて参りますが。」
「は?あ、いや・・・別に大した用事でもないしいいよ。たぶん明日でも間に合 うだろうし。」



いやきっと別に届けなくても間に合ってると思うし。
静蘭の申し出をやんわりといなしてからにっこりとした笑顔を浮かべる。
ありがと、気持ちだけ受け取っとくことにするよ。と。

でも、と言い淀む秀麗を止めるべく矢継ぎ早にていうかさ、と口を開く。



「食べていい?」



右手に綺麗な茶色の箸を持ち、食べる準備満タンで秀麗に向かいちょこん、と首を傾げる。
せっかく腕によりをかけて作ってくれたというのに手付かずで放っておいてしまっている。せっかく美味しそうなのに申し訳ない。というよりももったいない。

何分、色々と焦ったし、喋りまくったしで、体力を消耗したから腹が減った。(まぁどれが一番かと聞かれれば静蘭とのやりとりが一番体力を消耗したと迷いもなく言えるだろう。もちろん当人のいない所で。合掌。)


「あ、はいどうぞ。口に合うかわからないけど・・・。」

「今日も美味しいですよ、秀麗お嬢様。」



ご飯冷めちゃったから変えるわね。なんて言いながら茶碗に手を伸ばす秀麗の手をいやいや大丈夫だから、と再度手で制止をかけてから・・・静蘭を睨む。ニッコリと笑ってらっしゃる静蘭。

うん、さっきからちょっと気になってはいたんだ。人のことを差し置いてモグモグと美味そうに食いやがって・・・!とかさ。
べべべべ別に私食い意地張ってるってこたぁない・・・と、思うんだけどさぁ!

秀麗の腕によりをかけて作ってくれたっていう美味しそうな手料理を横でパクパクと食われてちゃなんかこうなんだろうイラッときちゃったりするわけだよね。
ああそれ以上食うな無くなるだろ!なんてことを考えていたわけではないよえへごふ。でも私一応お客さんになるわけでさ。静蘭のように普通に菜に手を出すのもどうかと考えたり、ぶっちゃけ食うタイミングを逸したっていうかまぁちゃんと空気読んで不自然にならないように注意してたわけ。まぁ静蘭もいつの間にか食ってて自然っちゃあ自然だったんだけどさ。これとそれとは話が違うだろ的なね?

恨みがましい目で見ていれば、どうかしましたか?なんて聞いてくる静蘭。
この野郎すっとぼけやがるか・・・!お前絶対わかっててやってるだろうだって目が笑ってるっ!!

この猫被りめが…!!


こうやってハブとマングースの戦いは勃発する。
(やがては先程と同じように蛇と蛙状態になるのだろうが。)








そんな2人を見てふと、秀麗の中に疑問の種が芽を出した。



静蘭ってこんな人だったかしら・・・?



少なくともいつもの静蘭ならばお客様よりも先に菜を食べたりなんかしないし、 なによりこんな風に初対面の人と親しそうに話したりはしない。
自分はあまり覚えていないが一緒に暮らし始めた時は無口で無表情で大変だったと父様が苦笑混じり教えてくれたのを覚えている。
そんな静蘭が、である。

こんなに楽しそうに喋っているだなんて。












もしかして―――

静蘭とって昔からの知り合いだったりするのかしら――― ?











2006/11/15 
 書き直し 2006/7/11
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