月に叢雲 花に風

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  act.6  









「こんにちはー。忘れ物のお届けに参りましたー。」



もしかして、そろそろ痴呆症とかきてちゃったりするんじゃないですか?
年考えた方がいいゼ☆

・・・と、思わずポロッと言ってしまった私は別に悪くないと思う。
ちょっとしたおちゃめじゃんか!!ねえ!?これで拳骨はちょっとないと思います!!ちょ、いてぇええええ!!














月に叢雲 花に風
 act.6


















「―――で、結局邵可さんと一緒にここまで来ることに相成ったわけだ。」



うんうん。と頷きながら卓子においてあった梅饅頭を頬張る。はむ。

昨日、あれからなんだかんだと言ってだらだらと居座り、最終的には泊まらせてもらうというお世話をかけてしまった紅邵可邸。
晩飯食って秀麗の手伝いで後片付けして、一息、とばかりにお茶をすすって取り留めもない会話をして、さぁ帰ろう!といざ立ち上がってみれば外はもう真っ暗。

一瞬、呆然とした。

もう遅いから泊まっていきなさい、という邵可さんの言葉とそれに賛同するようにそうよ!それがいいわ!とか言ったり深く頷いたりしてくれた秀麗と静蘭の好意をありがたく受け取った次第だ。

だってこの国ったら街灯ないんだよ?必然的に夜は真っ暗わぁ月の光で明るいねってそんなわけあるか昨日は何の虐めか新月でマジに真っ暗でしたこぇええええええっ!!!
基本、チキンハートです未だにあの黒い物体に慣れません。寧ろ、慣れたら終わりだと思います色んな意味で。

そんなわけなんだが紅家住人たちはそんなことは気にしなくて良い。寛いで。と声を揃えて笑って言ってくれた。(なんて素敵な方達なんだありがとう!!)

どこかのおじい達といると絶対に感じることはできないという人間という生き物の暖かみを十分に補充し、先程口頭で述べた通り、邵可さんと一緒に出仕したのである。
いや、私の場合、別に仕事をしに行くわけでもないので“出仕”というのもおかしな言い方だな。
とにかく二人で足先揃えて外朝へとやってきた、ってわけである。

何故だか道中、刺すような殺気を感じたのだが邵可さんに気にしなくていいよ。とニッコリ笑顔で一刀両断されてしまった。(あれこの人微妙に黒くね?と思った瞬間だ。)

いや、まぁ実害無いし邵可さんがそういうのなら別に構わないのだけれども。
途中でどこからか投げられたこの扇子はもらっていいのだろうか。

と饅頭を食いながら件の扇子を眺める。
結構高そうなのだが。これ売ればたぶん当分凌げそう。どうしよう売っていい?実は前から欲しいけど高値で手出せないなーって思ってた本があるんだ。売っていい?なんとなく誰のかわかるけど(何しろこっちには小説というカンペがあるし。だいぶ記憶曖昧だけど邵可さんと一緒にいて何か飛んでくるっつったらあの人しかいなくね?)会う機会なんて到底ないだろうし。自分でなんて汚すのが恐すぎて(こんな高そうなやつで扇げと!?貧乏根性が反発してジンマシン出るわ!!)引き出しに締まっておくのが関の山だろうしさー。



「―――で、よ。今更じゃがどうやってここまで入ってきたのじゃ?」

「・・・は?いや、普通にだけど。それがどうかした?」



扇子を片手に脳内会議を開きながらもう片方の手でモグモグと梅饅頭(2個目)を食べた後、梅茶に手を伸ばす。
炎のおじいと同じ部屋にいた人物―――霄太師の言葉に何だ何か用かと頭を上げて、ズズズッと梅茶をすすりながら口を開いた。

その笑いが少しだけ収まったと思ったら今度は炎のおじいは霄のおじいに向かって話し掛けた。というか叫んだ。のに更に眉を顰める。
・・・・・・・・・・・・・・・・ん?

ああー梅饅頭ちょー美味い!!
それに秀麗んとこの茶も美味かったけどこの茶も美味い!!けどこれは茶っ葉自体が高いだろうなぁ・・・あぁ滅多にありつくことのできない美味さ。ゴチっす!!
こういう時だけおじいに感謝。だって自分では絶対買えない。



。その“普通”とやらを言ってみな。」



口元にニヤリという笑みを浮かべながら聞いてきた炎のおじいに眉を顰める。

まーた、年寄りに似合わねぇ笑い方しやがって・・・なに、また何か企んでんの?とは思いながらも答えなければ話が進まない。何より老人約二名の視線が痛い。ふーっと息を吐く。



「いつも通り、塀乗り越えて。」




それが今更、どうかしたのか?と。
こんな小娘に城がわざわざ開門してくれるわけがなかろう。それならばバレないようにこっそりひっそりレッツ不法侵入だ。大丈夫、下心はないから。でも良い子は真似しちゃいけませんよっと。

自慢じゃないが運動神経はすこぶる良い方だと自分でも自負している。塀なんてピョーンスタッだ。

そんな私の言葉を聞いて炎のおじいはまたもや年寄りらしくなく大声で笑いだした。(その内顎外れても知んねーぞ。)



「な?言ったろ、霄!これで今回も俺の勝ちだな。」




「まーたわしの負けかい。悔しいのぉ。そろそろ正面突破してくるじゃろうと思っとったのに・・・これで何回目かのぅ。」

「はっはっは!まーだまだ甘いな、霄!これで今回の酒もお前持ち。やーごちそ うさん。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んん?



「・・・おい、ちょっと待て?」



コトンと音をたてて卓子に湯呑みを置いてから、地を這うような低い声。
ガバッと顔を卓子から上げる。



「賭けとかしてやがらなかったか今!?オイコラ人を賭け事の道具に使ってんじゃねぇよこの人生落第じじい共ッ!!!」



ピクピクと米噛みが動いているのが自分でもわかる。
なんだコイツ等。人の親切心を賭け事に使いやがって・・・!
そんなのだから“人の暖かみが感じられない”とか言われるんだ!(私に)
ニヤニヤ面白そうな顔で笑いやがって何がおかしい何が!!



「まぁまぁー、落ち着くのじゃよ。」

「とか言いながらも楽しそうな顔とかしてんじゃねぇよ、霄のおじい!!」



腹いせにホッペタ抓ってやろうと思ったらヒラリと避けられた。
なにこの老人とは思えない身のこなし!ああそうか人間じゃないのかと独り納得。あれだよ、宇宙から来た系の人なんだよ。そのうちきっと龍の球とか探し出すんだぜ。さっさと旅に出ろ。

たく、これだからこのおじい達といると人間の暖かみに続いて、安らぎというモノの言葉さえも忘れそうになるんだよな昨日補充してもらったばっかだっつーのにああもうすでに懐かしい・・・。

ブツブツ言いながまた梅饅頭に手を伸ばす。
これ中々美味い。あれだイライラには甘いもの。お前の物は俺の物。おじい達の物は私の物。なーんちゃって!!あはは・・・



「おい、。お前さっきから何勝手に平らげてんだ?」

「はは・・・・・・・・・・へ!?」



思わず梅饅頭に伸ばした手を止める。寧ろ固まる。

何 勝 手 に ?

梅饅頭ですが何か?と聞き返せればどんなにいいことか。
ああああ梅饅頭と茶の美味しさ二大共演に感動してすっかり忘れていたというか…!!そうだよこの二匹の狸達のモノを食ってただで済むはずないじゃん忘れてたのはどこのバカだ私だぁあああ…!!

駄目だ。嫌な予感しかしない。もしや・・・とか思わなくてもうんもうたぶん必然。

そぉっと振り返ってみれば霄のおじいも、炎のおじいもニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべている。



「ごごごごめん!!!つい美味かったから止まらなくて・・・えっと、なんか今から買ッテキマショウカ?」


もち私の奢りです。ちーみちみ知り合いの店の店番とかして貯めたり、生活費をケチケチ節約しまくって貯めたりしてる(最近はああこれが主婦ってもんかとか実感してきちゃってる)そんな私のへそくり的なものです。借りを作っておくと後々面倒なんです!!



「いや、なんか作ってくれ。お前が作る菜は珍しいがなかなか上手い。」

「そうじゃのう・・・わしゃあの五平餅とやらが食いたいの。」



あれ、そんなことでいいの?と一瞬拍子抜ける。こちとら必死に貯めてきたへそくりがすっからかんになるかもという覚悟までしていたというのに。いやまあそうならないにこしたことはないのだが。
んじゃ作ってくるよ、と言いかけた私を遮るおじい達の声。

みたらし団子ー
草餅ー
ずんだ餅ー
柏餅ー
べっこう飴ー

ん、ちょ、え、多くない!?おおおおおお多くない!?
何だよソレ何回もち米炊けばいーわけ!?
どんだけ食うわけ!?寧ろ腹に入るわけ!?
ねえ!?やっぱり胃袋妖怪説!?そうなの!?やっぱりそうなの!?つーかあれだよね存在自体が妖怪だよね!

なんて言おうもなんかどこから突っ込んだらいいのかよくわっかんね!なので鯉のようにぱくぱくと口を開閉するしかない。ぶっちゃけこのおじい達の存在自体がわっかんね!なのですがまあいっかわっかんねぇええええ!!


















「ところで、虹仙様。」

「・・・なんだ?」


が室を出た後、霄太師の雰囲気が急にガラッと変わる。
先程の食えない狸じじぃの顔とは違う、太師の顔、いや、七仙の中の1人の顔に。

それと同じように炎珂の顔もと初めてあった時のようにキリッと変わった。



「あのという少女が、本当にあなたの跡取りということになるのですか?」



霄はが出て行った扉をチラリと見てからその視点をまた炎珂に移す。



「・・・そうだ。予想と違って男じゃなく女だが・・・中々の奴だろう?」
「・・・確かに。」



炎珂の言葉に霄はフッという笑みを洩らしながら答える。



「戸籍もなけりゃ、親類もいない、なんていう意味がわからんヤツだが、彼奴という人間は此処にいるんだ。それだけで充分だろう?」



宵が次に口を開く前に炎珂は言葉を発し、そしてそれ以上話す気はないとばかり にお猪口に注いだ酒を飲み込んだ。



「・・・そうですね。」


そんな炎珂の様子から察して宵もコクンと酒で喉を潤した。
カーッと焼けるような感覚が喉を通っていく。

シンてした空気の中、もう一杯酒を注ぎながら宵は考えた。















急に我らが前に現れた不思議な少女。
虹仙様が連れて来られた、この世界の波と違う波を持つ少女。



ふと、一筋の疑問がよぎる。



10年前のあの事件…
彼女はあの事件何か、関わっているのではないだろうか…?








 

2006/11/21 
書き直し 2008/8/2
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