月に叢雲 花に風
act.8
とぼとぼとぼ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
とぼとぼとぼ。
あー・・・空が、青い、なぁ・・・・
キラキラとした日光差す往来の道を歩くのは、いつもなら結構気持ちいいんだけども。
やっぱり、隣に人が居ると居ないのとでは、全然違うっぽい。
なんか、ダッシュで走り去りたい。
んで走り去った後に穴があったら入りたい。寧ろ、超特大の穴を作成して引き籠もりたい。
月に叢雲 花に風
act.8
「ちゃーん!その隣の美男子、彼氏かーい?」
「あらまー。ちゃんももうそんなお年頃かい。」
違います!と何度言えばわかんのかなこのおばちゃん達は!!
いやいや、最低でも3桁いかなきゃいけないかなぁなんて考える。だってもうそれくらいは言ってるからさ。
いい加減理解しておばちゃん達ぃいいい!!出店出してニコニコしてる場合じゃないよもうちょっと理解能力の向上を目指してぇえええ!!
なんていう私が心の叫びの横で浅く眉間に皺を刻む絳攸さん。
曰く、「早まったか・・・」とか。
うん、私もちょっと早まったかななんて思ったけど、私の所為じゃないよね!
数刻前のことだ。
おじいの家の前に倒れている絳攸さんを見つけて、私は彼の邸まで彼を送る、と申し出た。
だってなんかここら辺の森って皆が皆迷うらしいんだよね。何か昔の偉い仙人だかなんだかかここに呪い(まじない)を掛けたとかなんとかで。迷惑この上ない話だよねー。うん、やってらんね。ざけんなよ仙人とやら。
そんなもんだから余ほど土地感ある人以外はちょー迷うと思うの。・・・有り得ない程迷うの。なんだろう有り得ないよね。この前の人なんておじいに薬調合してもらおうと家訪れるのに1週間迷ったって言ってたし。有り得ない通り越してナイ。それはさすがにナイわ。
だからまあ送り届けますよってことをにーこりと営業スマイル。
そう言った時、目の前の迷子名人が予想通り、先ほどまで青白かった顔を、パァッと明るくしたのはここだけに記しておこう。
ちなみに笑いを堪えるのが必死でした、とも。
ちょ、年上だけど弟属性だよねこの人!!間違いなく!!
まぁそんな話は置いといて。
遺憾ながら呪い(まじない)の話も本当らしいんだよね。
ああなぁんて傍迷惑な・・・。
炎のおじぃのよくわからない説明ではこの森は一般人が入っていい所じゃないんだとか・・・うんちゃらかんちゃら。
なんか話が長かったから、途中でうとうとして聞いてないんだよね。あは!
んじゃ私とかなんでこの森に入れてんだよ。迷ってないよ。っていう疑問は炎のおじいの例のニヤリ笑いで一蹴された。 (ちょっと引いた。)
「また今度な。」とかあしらわれた覚えがある。
くっそー、気になる!
おじいの奴!いっつも、後出しにしやがって。おかげで私は色々と後の祭りなんだああもう事前に言っとけよなって感じだよ!!
腹いせに今度夜中に室忍び込んであの長い髭三つ編みにしてやろう。
次の日、ウェーブかかってくるっくるになって泣けばいい。すごいことなること必見だ。
すんげー面白そう。
―――とまぁ、話を戻すとそんな感じで、私と絳攸さんは炎のおじいの邸を後にしたわけである。
普段、町に降りて公道を歩く時なんかは炎のおじいと一緒か一人でいたので、そんな私の隣におじいとは違う人物が居たのならば・・・うん、なんかもう目立つみたいなんだよね!この人、無駄に顔はいいしさ!!
ありえないくらい大勢の人に囃し立てられてます。阿呆かいい加減どぁまぁるぇ(黙れ)!!と叫びたい。
。私のことだが、自分で言うのもなんだが、私の顔は中性的だ。最近の服装は特に炎のおじいのお古をかっぱらって着ているのでどっからどう見ても男、というのはおじいの言である。もう少し女らしい格好をしろと言われたがんなもんは面倒くさいことこの上ない。だってお前良く考えてみろ。この世界に限らず女子の格好は色々とひらひら着飾って実用性に欠く。森での、炎のおじいの邸での生活は中々にアクティブなもんで・・・まぁそんんなわけで実用性を重視して男の格好をしてみているわけだ。楽だからいいや、という楽天的思考である。うん、楽だからいいよね!
なわけだが・・・
おま、傍から見たら絳攸さんと私とか男同士ということを忘れるな!!
思わず突っ込む。
出店のおばちゃんおじちゃんはさ、別に私がこんな格好してるけど女だってことを知ってるわけだけどさ。
旅人は知らないわけなの!!わかる!?そんな二人が恋人だのなんだのと言われてたら気持ち悪いじゃん!明らか可笑しいじゃん!!
何回言っても叫んでも聞きやがらねぇし!!
この耳は飾りかぁあああ!!とひっぱたきたくなる気分に陥ることもしばしばだ。
「えーと、その・・・すみません・・・。」
地面を見つめながら呟いた。
というか恥ずかしいのと申し訳ないのとで絳攸さんの顔が見れないだけなのだけれども。
まさか、炎のおじいの邸を出た時はこんな状況に陥るだなんて考えてもいなかったし、考えたくもなかったな。
なんで今日に限ってみんながみんな店出してんだよ・・・!
しょぼくれる。マジしょぼくれる・・・!
まっさかこんな所で吏部侍朗に出会うとは。
と絳攸さんを発見した時は心底思ったが、今はまっさかこんな所で吏部侍朗に迷惑かけるとは。だ。
本当に頭が上げられない。つーかこれ私が悪いんじゃなくね!?ねぇ、どうなの!?どうなの!!?
「いや・・・構わない。こちらも送ってもらっている身だ。」
「そう言って頂けると本当に助かります・・・。」
絳攸さんの有り難いお言葉に思わずホロリした。
私の所為ではないと断固主張するがそれでもそう言ってもらえると楽だ。有り難い。
気を取り直して、絳攸さんの顔をじっと見る。
それはもうじーっと。ガン見で。
「・・・何か、俺の顔についているか?」
「あ、いえ何も。・・・強いてあげるとすれば目と鼻と口と耳がついてますけどね。」
あ、すべった。
ちょっと動揺してしまった。
「え、えーと。皆が言うように本当に美男子だなぁって思いまして。」
あははと慌てたように言えば絳攸さんはそんなことか、と小さな溜息をしながら呟いた。
「別にそんなことはない。とうかそれを言うのならお前も中々の“美男子”の部類に入っているんじゃないか?」
ニヤリ、と絳攸さんは笑う。
彼は私の性別を知っているはずなのでからかっているのだろう。
ささやかな仕返しか!
「それはどうもありがとうございます。」
「いやいや、それほどでも。」
にーっこりと笑う(目が完全に笑ってない)とそれにこちらも笑顔で答えた青年(絳攸)の周りに何か黒いものが見えた気がした、と後に塩屋女主人の林は語った。
「あ、そういえば絳攸さん。」
「なんだ。」
「確か絳攸さんって吏部侍朗をしてる方ですよね?」
確か、じゃなくて絶対って知ってるけども。
ていうか境遇とか色々それはもう繊細に至るまで熟知しているけども。(なんかストーカーみたいだな)
「そうだが。よく知っているな。」
「ええ。まぁよく朝廷にはお遣いに行くもので。」
狸じじいズの所為でそれはもうよく!
へたな下官よりも朝廷には詳しいと思います。自慢になりません。つうかできません。
とは口にしなかったが、何か瓦割りとかいらない雑誌をビリビリ破りたくなかっただとか、そういうことをしたくなったのは内緒だ。
「それで、ですね。もしかしたらと思ったのですが、これから邸に向かうより、そのまま朝廷へと出向いた方が良いんじゃないかと思いまして。」
飛び交う野次にもう躍起になったのか「今度覚えとけよ。」と心の中で黒いことを考えながら言った私の言葉に絳攸さんはピタリと動かしていた足を止めた。
「そういえば・・・そうだな。」
「ですよね。」
なんで気付かなかったんだろう・・・
というのはその時の2人揃っての心の心境だ。
・・・気を、取り直して。
朝廷行きましょう!
一歩踏み出して・・・額を抑えた。
「・・・絳攸さん。そっちじゃなくてこっちですよ。」
向かう先は何度も行きなれた朝廷である。
にもかかわらず逆の方向を向くのか・・・と改めて絳攸さんの超が付く程の方向音痴ぶりを認識した今日この頃。
2007/3/3
書き直し 2008/8/7
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