万事屋ビスタ
第11話 お前は姑か
希望的観測で話をすると、店に戻りたい。
少数とは言え、ビスタに小銭握り締めてやってくる近所のガキんちょ共というお得意さんもいることだし。
話を聞けば、ここ数日店を閉めているのでどうしたんだろうと心配もしてくれていたりするようだし。
あれだよね、いつも楽しみにしている一風変わった菓子(ただし日本では超主流)をせっかく親から銭もらって買いに来たのに買えないとか嫌だよね。
楽しみにしてた期待分合わせて返せって感じだよね。
うん、わかってる、 菓 子 目 当 て 。
だがしかし、駄菓子菓子。
それでもやっぱりその期待に答えたいわけで。
わけ、なんだけども。
「そんな所で何をやっている。庶民は油売ってないでキリキリ働けこの庶民。」
庶民って二回言った!
二回も言う必要性が感じられない。
つーか何処から沸いたんだこの人!
思わず殺虫剤をかけたくなったである。
ぷりーず ぎぶ みー ご●じぇっと!!
万事屋ビスタ No.11
「絳攸殿が倒れたんだって?黎深、君はたった1人の養い子が倒れたっていうのに何をしてるんだい。」
うきうきと印の菓子を持参して、勇気を出して府軍を訪れた紅黎深は大好きな兄上の言葉に一瞬にして血の気が引いた。
え、なに、そういうもんなの?といった心境である。
ヤバい、このままでは大好きな兄上に嫌われる。
黎深にとって李絳攸は放っておいても後についてデカくなった感があるだけに放っておいても大丈夫、見舞いなんていうコトバは端から彼の辞書には無い。
何ソレ、おいしいの?状態である。
もちろん大っ好きな兄上一家が病気にでもなれば草葉の影から精一杯のことはする。
精一杯、トンチンカンな贈り物を貢ぐだろう。匿名希望で。
どうしようどうしよう、どうしたらいい。
今から行くかでも今はせっかく兄上と会っているのにうんちゃらかんちゃら。
兄上一家のことでのみ優柔不断になる黎深である。
未だに姪っ子に叔父さんだと名乗れない。
「そういえば殿、と言ったかな?彼女はよく気の回る良い子なんだってね。」
ガビーン
黎深、雷に打たれる。
私が、窘められて。
あの娘が、誉められて。
・・・あんの小娘、身の程知らずにもほどがある!!
の名誉のため言っておくが、友はただ一生懸命職務を全うしただけであって、責められる云われは何処にもない。
ただ単に黎深の八つ当たりである。
何処までも大人気ない。
しかしそこで『なら私が絳攸の世話をしよう』ではなくて『あの小娘、お前が疲労で倒れろ』となるのが紅黎深の困った思考回路なのである。迷惑。
ちょー迷惑。
お前は嫁いびりする姑か。
「大変だねぇ、殿も。」
「・・・・・・。」
無言は肯定。
それは言わないお約束、というような絳攸との暗黙の了解的なものを楸瑛がバッサと一刀両断。
ピッチャー藍楸瑛、振りかぶって投げた!おおっとミットから煙が出るほどの豪速球!
キャッチャー李絳攸、無言で受け止める!キュルキュルと音が鳴りそうな勢いで回る球をものともせず、ヒト一人殺っちゃいそうな視線でもって返球!
「何をやっている馬鹿者。それはこっちだ。」
「・・・・・・。」
おおっと!ピンチを呼ぶ逆ピンチヒッター紅黎深、ここで呼ばれてないのに飛び出した!
仮にも乙女にどんだけ重いもん持たすんだという非難の視線も暖簾に腕押し、馬耳東風、聞く耳持たずで全く関係ない方向にホームラン!
サード、一応追う!バックネットを越すボールを溜息を吐きながら見送ったぁ!
って追ってないじゃないか。
はぁ、と思わず深い溜め息を吐くである。
彼女にとってみたらば、甲斐甲斐しく(?)絳攸の世話をし、楸瑛に一応客だからと茶を出し、今朝方作った菓子を出し、絳攸には消化の良い粥を作ってやりと働いていた時にやって来た人災イコール紅黎深。
その人災としか例えようのない輩がなんか指示してくれやがる。
書簡を運べから始まり、模様替えでもするのかと問いたいくらいにはアレはこっちでコレはあっちだとかほんとなんか専門業者呼べ。
ていうか此処、絳攸さんの室なんだけどな。
そんなことを心中思いながらも嫌な顔一つせず・・・もとい、文句も口には出さずに働く私は偉いと思う。
あれだ、黎深さまが現れた時に思わず顔を歪めてしまったのはしょうがない。
だって初対面にして拉致。トラウマだから、あれ。
一応、万事屋だからさ。
どんな仕事でもしますよ、できる限りはね。
まぁ、今請け負ってるのは“絳攸さんの”侍女だから後で別料金頂きますけどね。商人魂忘れずに。
ビジネスは時に小賢しくならねばやってられんですよ。
そうやって、の臨時収入は増えていく。
ちなみに収入の出元は絳攸の財布だ。
黎深に断られた無言の圧力。
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明日は絶対筋肉痛
2008/10/1
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