万事屋ビスタ

第12話 非凡人






ぬーすんだバーイクではーしりだすーぅー。


「・・・おはようございます。」


朝一番に黎深様のドアップ。

・・・効くわぁ。










万事屋ビスタ ??12









、遠慮するな。これなんかどうだ庶民にはそうそう食えない菓子だぞ。」

「はぁ・・・どうも。」


まぁ紅州名産の蜜柑やら何やらをこんなふんだんに使われてたら庶民には原材料だけで既にバカを見そうですけどね。あと、前から思ってましたけど黎深さん、一言多いです。

・・・そんなことは今はどうでも良くて。
寧ろ、それが黎深さんですよね。一言多いくらいがこのお方ですよ。あれれ、ちょっとムカっときちゃうぞーな気分にしてくれちゃったりするのが黎深さんだよね。うん、なんだろう私、幻覚が見えるよお母さぁん!!

黎 深 さ ん が 優 し い で す

そんな馬鹿な!!そんな阿呆な!!
ウワァ、破滅へのカウントダウン!?

只今脳内パニクりすぎてうわっほうです。

待て待て、昨日まであんなに、いっそ清々しいくらいにコキ使ってくれちゃっていた黎深さんがどうしたの。
シンデレラの継母か何かですかって感じにネチネチと意味のわからんお仕事を作り上げてくれちゃっていた黎深さんが優しいだ な ん て !!

ついに頭にケシ畑ができたに違いない。

あははははーうふふふふー。
なにこれなにこれ幻覚?夢?幻??

そんなに精神的にはキてなかったと思ってたんですけども、実は結構キてたみたいです。
無意識の内に色々と溜め込んでたのねー今度絳攸さんに追加料金請求しよう。精神的に病みました。

と、いうことで。

コレハゲンカクニチガイナイ。
じゃなきゃ夢。夢ユメゆめドリーム!だから早く覚めて!私!!

という私のささやかな望みも叶えられないままに目の前の幻覚(何故か優しい紅黎深。軽くホラー)は消えない。


「ん、これは美味だな。どうだ、一つ食わんか。」

「・・・頂きます。」


すみません、夢だからか何なのか先ほどから頂いてしまっているすんごい高値だと思われる菓子の味がわかりません。
緊張?いえいえ、寧ろ目の前のありえない状況の処理作業の方が優先されて味覚どころじゃないのね。

嗚呼、なんてもったいない。
どうせなら、こんな精神的付加が大きすぎる夢なのだから、どうせなら!
味覚からの幸せくらい感受したいな、なんて。

そんななんかもう悲しみなのか何なのかよくわからない気持ちに浸っていた時、ガラリと、扉が横にスライドした。
なんだなんだまたなにかとんでもな展開の登場か何なのか!!


「・・・・・・ちょっといいですか。」

「・・・・・・それは人の襟首をいきなり掴んで拉致した奴の言う言葉じゃないような気がするんだが
。」

「気のせいです。」


何がって拉致ってところがですよ。拉致?ノーノー任意同行と言って頂きたい。
絳攸さんも解かってるでしょう何で拉致・・・ごほごほ、連れて来られたのか。寧ろ解かってなかったら血祭りにあげたい。つーかあげる。


「これは、いったい、どういうこと、ですか。」


一語一語噛み締めるようにゆっくりと言った私の言葉を絳攸さんはおもいっきり眉間に皺をふっかぁく刻んだ渋面で受け止めた。

うん、オッケーオッケー何で連れて来られたか解かってるみたい。さすが絳攸さん、血祭りにあげなくてすんだね。
アハハハハーヨカッタヨカッタヨカッタネ。
てことでさっさとどういう状況なのか説明してください。

にぃっこりと笑うの表情から全てを読み取ってしまった絳攸は強く歯を噛み締めた。
こんな時には自分の“朝廷随一の才人”と言わしめた頭脳が恨めしい。気付かなくて良かったのに。
何故気付いた俺、いらん所で聡いとかほんと迷惑!

気苦労が計り知れない迷子の胃が心配。


「邵可様が、だな。黎深様に、灸を据えた・・・らしい。」

「何ですかそのアバウトな説明は。」


うっかり出た英単語に一瞬きょとんとされたが関係ない。
そんな些事は放っておいて、だ。

しょうか様って誰だ。
いやいや、予め原作というカンペをちらっとだが見たことがある私に言わせてみれば予想はできるが。
とりあえず聞いていたよりもなんかすごいお人なんだということは認めよう。
だってあの黎深さんに灸を据えれるってことだもんね普通の人なら大冒険。先は見えてるつーか死ぬ。


「なんですか、じゃあその邵可さんとかいうお人が黎深さんを・・・ああしたと?」


顎をクイッと。
先ほど絳攸さんの襟首掴んで出てきた室を指す。
きっとまだ黎深さんが不気味な笑顔を浮かべてらっしゃるのだろうなんていうホラー
お化け屋敷のお化けも裸足で逃げる。なんせあれも所詮はただのヒト。

この場合、しょうかさんに感謝していいのか悪いのかすこぶる微妙だな、と思う。

イビリを止めてくれてありがとう。
でもあの親切さは最早気持ち悪いです。

何事も度を超えるとダメっていうけどホントだね。
黎深さんの場合、イビリがないだけで既にもう恐怖。


「・・・・・・・・。」


絳攸さんはダッラダッラと汗を流しながら遠い彼方を見た。
それに習って、私も遠い彼方へと思いを馳せる。
あ、鳥さんがチュンチュン鳴いてる・・・。

まぁ、確かに、わからないでもない、よ…ね。
と思ってしまった自分に乾杯。
ああ、どうして出逢って数日の彼の人のことをこんなにも理解しているのだろう涙。

しょうかさんには感謝すべきなのだろうきっと。
思うに―――たぶん確実に、可笑しいのは黎深様の思考回路なのだ。
だって黎深サマだもの。

たぶん、歩兵を殿様ランクにレベルアップさせることくらい一瞬でやる。
そのくらい彼の脳は規格外。

邵可さんとやらの御言葉を斜め155℃くらいズレた方向に自己補正してとんでもな事象にするくらいは軽くやる。
と、確信できる。

の が 悲しかった。

は一度大きく深呼吸した。
吸えるだけの空気をありったけ肺に詰め込んで、勢い良く吐き出す。
このなんても言い難い気持ちを吐き出すように。
意識の変革。なったもんは仕方ない。
うだうだ言ってないで腹くくれ!


「よっしゃらーいッ!!!!」


バチンと、おもむろに両手で両頬を叩いた。
何だ何だ何事かと目を丸くする絳攸を尻目に漢らしく気合いを入れたはプルプルとシャンプー後のわんこのように頭を震った、
そして、


「こーなったら、絞れるだけ絞り取ってやろうじゃないの。」


ニヤリと、口角をあげる。
心機一転。

覚悟を決めた女は何よりも強い。

絳攸の脳内辞書に刻まれるまであと数秒。










2008/12/6
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