万事屋ビスタ

第9話 藍







どちらかと言えば絳攸さんは邸に居ない時の方が多い。

いや、どちらかと言わないでも多い。
ぶっちゃけ三日に一度帰ってこれればまだ良い方で、こんな立派な邸があるというのにほとんどを外朝の仮眠室で寝ては仕事しているのだとか。もったいない。
というかあまり寝てもいないのだとか。

どうなのそれ。労働基準法にばっちり引っかかるんじゃね?と思った私は普通だ。まぁ、憲法がないので、労働基準法もくそもないのだけれど。

日々濃くなっていく目の下のクマさんを見ていると、その内この人、ある日森の中で過労死するんじゃなかろうかとちょっと心配になる。花咲く森の中で倒れてたらどうしようかとか。

そんな状況の絳攸さんに比べて上司だとかいう黎深sannは毎日まだ陽が暮れていない時分に帰ってきますよねー、なんていうツッコミは無しだ。
なんかもう、かわいそうになるくらいの勢いで絳攸さんの眉間の皺が増えるから。
ぎゅっと眉間に皺を刻んだ絳攸さんはその後、数秒何かを耐えるかのように動かない。ちょっと、いや大分、色んな意味で居たたまれない。きっとこの人って天性の苦労人なんだろうなと思う。同情する。代わりたくは絶対にないけれど。

まぁ、なんだかんだ言いつつも絳攸さんてば黎深sannを尊敬してらっしゃるみたいだうん。言わないよ?触らぬ神になんとやら、とか言うし。

でも、さすがに。


「働き過ぎですよ。」


ぶっ倒れるまで働き詰めるのもどうかと。









万事屋ビスタ No.9









「・・・・・・・。」


はぁ、と絳攸さんの額に載せた布を取り換えながら思わず溜め息を零してしまった。

冷●ピタとかそういう便利な物はないからこうやって水で濡らした布で熱を冷まそうと試みているわけなのだが、一向に熱は退かない。
全く、熱出るまで働くなっての。

当の絳攸さんはと言えば、勤め先である吏部でぶっ倒れてから目を覚まさないとかでどんぶらこっこと川を流れる桃よろしく、この紅家邸に帰ってきたわけだが・・・それからずっと苦しそうに唸っている。

よっぽど悪い夢でも見ているのかとこっちが心配になる感じに眉間に皺を寄せてうんうん唸っているし。
汗もぐっしょりかいてて、額には珠のような大粒の汗が浮いているし。

そろそろ布変えるかな・・・。
苦しそうにしている姿を見ていると、少しでも楽にしてあげたくなる。
額に載せておいた布を持ち上げた。

うわ、ぬるい・・・。
それが相変わらずまだまだ熱は下がっていないことを表していて。


「・・・仕方ないなぁ」


再度、溜め息を吐く。

こんなに汗かいて、掛け布団もろくに被れてないし。
これじゃ風邪こじらせてく一方だっての。
ついでにべたべた気持ち悪いのも悪い夢見る一因かもしれないし。

額の汗を拭って、身体の汗を拭いてやろうと服の前の合わせをはだけさせる。
じいちゃんの世話でこういうのは慣れてるからまぁいいんだけど。
いいん、だけど・・・。

イイ体してんなコイツ・・・やっぱ人生の半分とっくに超えた人と全盛期の人の身体は違うなー。

なんてちょいと邪な考えを抱きつつ鎖骨、胸、腹筋へと布を滑らせていく。
いく、毎に。


「・・・ん、」

エロイ声出さないで欲しいなぁ・・・。

「そういう考えに持っていく君もどうかと思うけどね。」

「いやいやこれはさすがにちょっと・・・って、楸瑛さん!?」


いつの間にか背後に立っていた楸瑛さんに目を見開く。

こんなとこで何してるんですかアンタ!
つーか変なタイミングで出てくんな!!
なんていう失礼な言葉はごっくんと飲み込んで。


「絳攸が倒れたと聞いてね。」


お見舞いに、来たという楸瑛さんに胡乱気な視線を向ける。


「・・・お仕事は?」

「今日は非番だよ。」


んなわけあるか。
という言葉もごっくん。

そんなほいほいと将軍職のこの人が休みを取れるはずもない。

サボりか。 ま た サボりか。
前にも言ったがこの国の左右林軍が心配で仕方ない。


「・・・まぁそういうことにしておきましょ。とにかく、お暇でしたらコレ、お願いします。」


何を、という楸瑛さんに布を一枚押し付ける。


「絳攸さん、結構汗かいてるみたいなんで良かったら拭いて差し上げてください。上は私がやらせてもらったんですけど。」


さすがに下は。
憚られる。いやマジで!!

もう半飾り的なものになってるおじいちゃんとかとは違うじゃん!!
女嫌いでも超現役じゃん!!真っ盛りじゃん!!
こればっかりは慣れるわきゃないってね。
つか慣れたら色んな意味で終わるかもしれない。


「じゃ、お願いします!!」


そう言い残し、室を去った。

それを人は逃げと言う。

大丈夫、逃げたもん勝ち!!







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2008/9/9
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